「リンクフリー」と「ネチケット」を考える

Written by rahiem

リンクの自由は言論の自由の一部です

リンクの自由について

最近、「当サイトはリンクフリーではありません」とか「リンクを張る場合はトップページにお願いします」などという主張をよく目にするようになってきました。しかし、そのような主張に妥当性はないと私は考えます。

1.公開された著作物(サイト含む)を言及・引用・参照することは、著作権上もまったく問題はありません。(リンクは参照の一形態です)

これは、刊行された本などについて目録を作ったり書評を書いたり引用をしたりすることに著者の許可は要らず、まったく自由にできるのと同じです。たとえ引用禁止の表示があっても、正当な引用の手順を踏めば許されるという意見もあります。他人から引用されたりリンクされたりしたくないような文章は、最初からワールドワイドなウェブに載せるべきではありません。次に、「トップページのみにリンクすべきかどうか」についてですが、

2.本を読むときに必ず1ページ目から読まなければならないのでしょうか?

違います。むしろ引用したり言及したりするときは、本のページ数まで指定するのが普通です。また「サブページにリンクされると、コンテンツ改編の時にリンク切れになるおそれがあるから」という理由付けもよく見られますが、それはリンクを張った側が気にすべき事であって、リンクを張られた側の責任ではありません。また、過去ログがウェブ上で公開されている掲示板/メーリングリストでどこかのサブページを言及することはよくありますし、ブリンクなどのオンラインブックマークのサービスでは、自分のブックマークをサイト上で全世界に向けて公開できます。つまり、インターネットにはリンクフリーを前提としている実践が既にしてあまりにも多いのです。大体、「サブページへの無断リンク」が本当にいけないのなら、goo や Googleといった全ページ型検索エンジン自体が犯罪になってしまいます。

3.どういうリンク集を作るか、どのようにリンクを張るか、ということもその人の表現行為の一部であり、表現の自由として尊重すべきです。

たとえばの話、「歴史教科書論争」とかで、いっぽうの派がもういっぽうの派に対して「ウチの著作について題名と出版社名を述べるのも当方の許可が必要」とか「引用するときは必ず1ページ目から引用しろ」などと言っていたら、まともな言論は成り立たなくなるでしょう。

無断リンクに対して怒っている人たちや「言論の自由を振りかざしてネチケット/マナー違反をしている」などと批判する人たちがいますが、私に言わせれば、他人のリンクやリンクの仕方を制限できると考えるほうが相手の言論の自由を侵害しているおそれがあるのであり、リンクを外せと言うアナタの主張のほうがよほど無茶苦茶な「マナー」を相手に「振りかざして」いると思います。何かとひきかえに、あるいは内容・趣旨を事前に見せてもらってからリンク許可を出す、などというのは思想検閲に近い行為だと言えるでしょう。

百歩譲ってどこかのページにネチケットとして「リンク事前許可願い・事後承諾」が奨励してあったとしても、ネチケットはただの紳士協定であるのに対し、表現の自由は日本国憲法や世界人権宣言で謳(うた)われている、より大切な権利であると私は考えます。だいたい事後承諾願い/許可申請してもし断られたら、そっちのほうがイヤな思いをします。「当サイトはリンクフリーではありません」とか「リンクを張る場合はトップページにお願いします」という表現は、せいぜいが「相手の親切心に依存したお願い」に過ぎません

また、たとえ名誉毀損的な文言でリンク先が紹介されていたとしても、それは名誉毀損的な表現自体が問題になるのであって、リンク自体の有無が法的に問われるわけではありません。と、法律上はリンクを制限するほうがおかしいのは明らかなのですが、

4.「それでも、人のいやがることをすべきじゃないんじゃないの?」

という疑問も最終的には聞こえてきそうです。

しかし、世界に向けて情報発信している以上、いわゆるハッキングを除き、自分の気に入らない仕方でアクセスされたりリンクを張ったりされるのも覚悟しておくべきだと思います。「嫌いな奴は認めず、言論も制限される」のと「嫌いな奴もこの世にはいるけれど、言論の自由はある」のだったら、私は迷わず後者を選びます。「他人の嫌がることをしない」というのなら、自分の言論を誰かに封じ込まれることだってもっとも「嫌なこと」のひとつだと私は思います。「リンク禁止」や「相互リンク押しつけ」もまた「他人の嫌がること」でありうるんです。文化や意識の違う人たちが集う空間ではルールの明示も必要でしょう。そうでなければそれより上位の法律などが最終的な参照点になるでしょう。

リンクというものは、あなたが自分で張ったものでない限り、本質的に「他者の言論行為」に属するものなので、それを自分がとやかく言ったり規制したりできるという考え方は、やはり日本国憲法や世界人権宣言の理念(=言論の自由)にも究極には反すると思います。政治家や政府のサイトや文書とかが「リンク禁止」「引用禁止」になったら、恐ろしい世の中でしょう。評論や記事、エッセイなどを書くときに引用・参照するものについて、いちいち引用元の許諾を取っていたらキリがないでしょう。

ほとんど唯一の例外は、フレーム内に他人のサイトをあたかも自分のコンテンツであるかのように表示してしまっている場合です。これだけはやめたほうがいいでしょう(うまく設計できていなくて、間違ってそうなっているサイトが結構ありますけれど)。

というわけで、このようなごく限られた例外を除いては、リンクは無許可で、トップページ/サブページを問わず自由に張るということが認められるべきです。掲示板への直リンクもどんどんやればいいと思います(そのほうが便利な場合があります。私はブラウザのブックマークでよく使うところは掲示板が多いです)。最後に、私は「リンクフリー」という表示そのものさえ要らないと考えています。真に、そして包括的に自由ならばそんな表示はあえて必要ないでしょう。

様々な意見:参考リンク集

半田正夫 青山学院大学学長/法学部教授「無断でリンクを張ることは著作権侵害となるでしょうか」

リンクを張ることは、単に別のホームページに行けること、そしてそのホームページの中にある情報にたどり着けることを指示するに止まり、その情報をみずから複製したり送信したりするわけではないので、著作権侵害とはならないというべき

『リンクを張る際には当方に申し出てください』とか、『リンクを張るには当方の許諾が必要です』などの文言が付されている場合がありますが、このような文言は法律的には意味のないものと考えて差し支えありません

東北大学 後藤 斉「リンクは自由である!/印刷媒体での言及も自由である!/引用は公正な慣行に従って!」

『リンク禁止』の表示は そこにリンクを張ろうとする人の表現の自由を侵す可能性があるとさえ言えます

一旦公開した情報に関して一部の人には リンクを許すが他の人にはリンクを許さないなどということがあるとすれば、 むしろそのことこそ道義的に許されない、あるまじき行為である

明治大学法学部 法情報学 夏井高人

リンク先が当該ホームページのトップ・ページでなければならないというようなルールは,合理性がありません。仮にこのようなルールに合理性があるとすれば,新聞,雑誌,学術論文を含めたすべての媒体上のすべての引用・参照や編集等が不可能となってしまう危険性があります

自分のホームページ内の任意のページにリンクされることを望まない者は,そもそもインターネット上での情報発信を断念するか,または,任意のページへのアクセスを制限するための何らかの技術的手段を自らの自己責任で検討・構築すべきでしょう

常磐屋遼太郎「ウェブサイト公開に当たっての意見、一問一答形式」

ウェブサイトは・・・例えるならば・・・むしろ本。・・・作者の元にはファンレターだけでなくヘイトメールも来る。あなたの知らないところで『謎本』も『批判本』も出版される

リンクをするときに許可を取るのは礼儀なのか? いいえ。礼儀と信ずる者は取るとよい。しかし他人にそれを強要すべきではない

大阪大学 加賀山 茂「ホームページ作成の手引き」

自分の作品にリンクを張られることを快く思わない人は、WWWに作品を公開すべきではない。WWWの世界は、すべてが公開され、他人によって勝手にリンクが張られることを前提にした世界である。・・・この考え方は、フリーソフトウェア、シェアウェアの考え方に近い