青ひげ

ある森に、父親と3人の息子とひとりの美しい娘が住んでいました。ある時、王様の一行がやってきて、「娘さんを嫁にほしい」と父親に申し出ました。父親は喜び、その申し出を受けました。王様はりっぱな人でしたが、誰もが脅える真っ青なひげが生えていました。娘もそのひげを見て結婚がいやになりましたが、父に説得され承知しました。でも、不安だったため、内緒で兄たちにお願いをしました。「私の叫ぶ声を聞いたら、どこで何をしていても助けに来てください」。兄たちと約束を交わした娘は青ひげの馬車に乗り込み城へと向かいました。

青ひげの城はとても豪勢で望むものはすべて手に入りましたが、お后は青いひげにどうしても慣れることができず脅えていました。しばらくすると青ひげがお后に言いました。「わしは旅に出るので城中の鍵をすべて預けるが、この小さな金の鍵の部屋にだけは決して入ってはならぬぞ。もし、入ったらおまえの命はないものと思え」。お后はうなずくと鍵を受け取りました。

青ひげが出かけると、お后は渡された部屋の鍵を順に開けていきました。どの部屋も世界中から取り寄せた豪勢なものばかりが詰まっていました。そして見ることを禁じられた部屋だけが最後に残りました。その部屋の鍵だけ金でできていたので、一番高価なものが隠されているのかもしれないとお后は勘繰りました。お后は見たい気持ちを抑えようと努力しましたが、こらえることができず、鍵を取り出すとその部屋に向かいました。そして、ほんの少しだけなら、と部屋の鍵を開けてしまいました。

戸を開けた瞬間、いきなり血が流れ出てきました。中を見ると、そこにはなんと壁一面に女の人の死体がぶらさがっていました。お后はあまりの恐ろしさに、すぐさま扉を閉めました。ところが、その拍子に手が滑り、鍵が血溜まりの中に落ちてしまいました。お后は急いで鍵を拾い血を拭いました。しかし、片側を拭うと裏側に血がにじみ出てきてしまいます。お后は一日中鍵をこすり続けましたが血は消えませんでした。そこで最後の手段として、血を吸い取らせようと干し草の中に鍵を入れました。

あくる日、青ひげが帰ってきて、お后に鍵を返すように言いました。お后は、青ひげが金の鍵が欠けていることに気づかぬことを祈りながら鍵の束を渡しました。しかし、青ひげは鍵の束の本数を数えるとお后の顔を覗き言いました。「秘密の部屋の鍵はどうしたのだ」。お后は真っ赤な顔になり「どこかに忘れてきてしまったのかもしれません」とこたえました。「今すぐ、あの部屋の鍵が必要だ」。青ひげにそう言われたお后は「ああ、そういえば確か干し草の中でなくしてしまったのだわ。そこへ探しに行きます」。と切り替えしました。すると青ひげは怒り出しました。「なくしたのではない!血の染みを吸い取るために隠したんだろう。おまえは約束をやぶり、あの部屋へ入った。こうなったら今度はおまえにあの部屋へ入ってもらうぞ!」。お后はしかたなく鍵を取りに行くと、その鍵にはまだ血の染みが残っていました。

「さあ、死ぬ準備をしろ!おまえには今日中に死んでもらう」。お后を玄関まで連れてくると、青ひげは大きな包丁を振りかざしました。「どうか死ぬ前にお祈りだけさせてください」と、お后が懇願すると青ひげは仕方なくその時間を与えました。お后は急いで階段をかけ上がり、せいいいっぱいの大きな声で窓から叫びました。「優しい兄さんたち!私を助けに来て!」。森の中でぶどう酒を飲んでいた兄さんたちは、妹の声を聞き、馬に飛び乗りました。

「おーい、まだか?」と、階段の下から青ひげの声と共に包丁の研ぐ音が聞こえました。外を見ると、遠くに土ぼこりが舞っているのが見えるだけでした。お后は再度兄さんたちに向かって助けを乞いました。「まだ準備できぬというなら、こちらからおまえを連れに行くぞ!」。青ひげの急かす声がまた聞こえました。お后が焦って外を見ると鳥のように野をかけてくる兄たちの姿が見えました。そこでお后は3度目の助けを乞いました。妹の声を聞いた一番下の兄が「あと少しでおまえのところに行くよ」とこたえました。

下からは青ひげの怒鳴り声がまた聞こえてきました。「もう待てん!おまえを連れにわしがそっちへ行くぞ!」。私の兄さんたちのために、あともう1回だけお祈りさせてください」。お后のそんな願いにも耳を貸さずに、青ひげは階段を上っていきました。そしてお后を下へ引っ張っていき、髪をつかみ心臓めがけ包丁を突き立てました。その瞬間、3人の兄たちが現れ、サーベルで青ひげを切り倒しました。

それから、青ひげは血の部屋で自分が殺した死体といっしょに吊るされ、財産はすべて妹のものとなりました。そして、兄たちは妹を家に連れて帰りました。

おわり