第二話 ビールの味
サイキカツミ
ミルトンナシメント CD

 

■Milton Nascimento
CLUBE DA ESQUINA

1.Tudo Que Voce Podia Ser
2.Cais
3.O Trem Azul
4.Saidas E Bandeiras No. 1
5.Nuvem Cigana
6.Cravo E Canela
7.Dos Cruces
8.Um Girassol Da Cor De Seu Cabelo
9.San Vicente
10.Estrelas
11.Clube Da Esquina No. 2
12.Paisagem Da Janela
13.Me Deixa Em Paz
14.Os Povos
15.Saidas E Bandeiras No. 2
16.Um Gosto De Sol
18.Lilia
17.Pelo Amor De Deus
19.Trem De Doido
20.Nada Sera Como Antes
21.Ao Que Vai Nascer
21.Ao Que Vai Nascer

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「子供の写真って卑怯だわ」
 響はいった。僕らは市役所に併設されている美術館に買い物がてら寄って、そこで展示されている中南米の写真展を見て、出てきたところだった。
 
そりゃ、子供もいるさと僕は思わず答えたが、そういうことではないらしい。
「だってよ、動物と子供は作る映画に困ったら使う手じゃないの」
「映画の話?」
 ちがう。と響は答えた。
 
実際、その写真展はチャリテイの協賛もしていて、病に倒れる子供に一本の注射を、という垂れ幕が下がってて、それでもって、にこやかな表情の子供の写真ばかり並べてあるのだから当然同情する以外には寄付という手段しかないわけで。
 
僕らは目当てにしてた特別展がなにやら急に閉展になってしまったせいで、仕方なくその写真展を見たのだけど、響がちょっとだまされた気分というのはわからなくもないのだった。
 でも写真に写る子供達の表情はにこやかで晴れやかで天真爛漫で、都会では目にすることができないのではないかとも思えた。
「知ってる? あれはあなた達は間違ってますっていう、説教なのよ」
「そこまで言わないでも」
 僕はやんわりたしなめようとしたけど、響は「だから悔しいのよ」と答えた。
 あの少年少女たちが望んで貧困の国に生まれたわけではないのと同じように、僕らもこの国に望んで生まれた訳でもない。だからといって、今すぐ彼らと僕らが入れ替わったところでなにかになるわけでもないだろう。もちろん、そこで初めて大変な思いをするのは僕らのほうだとも思うわけだけど。それは仕方のないことではないだろうか、と呟く。
 が、響は既に耳を閉ざしている。
「お腹すいた。何か食べて行こう」
 僕らは混雑する日曜の昼の繁華街のファーストフードに入って、ハンバーガーを注文して、食べた。
 そしたら隣に座ってた中年のおじさんが読んでいた新聞に、さっきの美術館に盗難が入ったという記事が見えた。響はおじさんからその新聞を借りて「今、ちょうどこの美術館いったら閉まってて」とかおじさんにいいつつ、記事を見た。
 
「昨日未明市立図書館に盗難が入り○○○○という有名な日本美術界の巨匠の数点が行方不明」とのこと。
  図版が大きく載っていて、一つ目がアフリカかどっかの小さな村の情景で、二つ目にあげられている絵は、それは明らかに貧民街に住んでるだろうと思われる白人の子供と黒人の子供が並んで座っている絵だった。
 僕はどっかで見たことがあったはずだと思いながら帰宅した。
 CDの棚を引っかき回すと、果たして、あった、あった。これだよ、と見せた。
「なによ、その嬉しそうな顔」
 響は思い出したかのようにご機嫌斜めになる。確かにあの写真家の元ネタがわかって嬉しくないというのは嘘になるが、そんな顔してる? と聞くと、「してる」だとさ。ちぇっ。
 CDを聞きながら、響はいった。
「貧しさと悲しさを知らない人間には美しさも描けない、っていう言い草はホントに嫌いだけど、でも、こんな音楽、決して私たちには絶対作れないわ」
 それは、同意した。僕らは空を駆けるような歌声の中で、スーパーで買ってきたビールの蓋を開けた。ほんのり苦い味がした。