特集:童話 Folio vol.3
F91 イラスト:甲斐
F91石川
 昔々あるところにおじいさんと赤ずきんちゃんがいました。おじいさんは財テクにはまり、赤ずきんちゃんはその若い肌を差し出したあの夜から、おじいさんのためにとなけなしの貯蓄を削り削り、「愛情って、投資に似てるっていうけれど本当なのね…」と抜き差しならなくなってしまった悲哀を揺れるボジョレー・ヌーボーに見るのでした。おじいさんは山へ財テクに、赤ずきんちゃんは川へ洗濯に、それぞれの道を歩み始めました。赤ずきんちゃんが内部の中心線にコルクみたいなカタマリが付着したトランクスをもう行くところまで行くしかないといった顔つきでゴシゴシ洗っていると、川上から、ムーンボレー、ムーンボレー、と、狼が流れてきました。赤ずきんちゃんはびっくり仰天。手にするはずだった幸福という記憶を奪還するかの如く、コマンド投げのようなモーションで狼を収めた赤ずきんちゃんはすぐさま愛情小豆相場たる我が家へと帰還するのでした。こんな相場ではいつ回収していいか見当もつかないわ…、と、財テクの名のもとに鈴木保奈美とボート部を結成していたおじいさんのホクホク顔を視界の端に入れ呆けていると、天井の梁に太った男がぶら下がっており、「首を吊ると死にますよ」という赤ずきんちゃんの助言はむなしく響きました。狼を見せるやいなや、おじいさんは食欲を隠そうともしませんでした。そのあふれ出るよだれに赤ずきんちゃんははからずも胸が湿るのを感じ、その白いロングスカートに擦り合わせる内股で皺を作るのでした。おじいさんは当然わかっています。しかし、そのような情欲に耐える赤ずきんちゃんの姿を見て、おじいさんは冷笑し、頭を二三度軽く撫でるのみでした。袖を掴む赤ずきんちゃん。今日も夫婦は成立しています。おじいさんが狼の腹を裂くと、中からテニスの王子様が出てきました。「まだまだだね まだまだだね」元気に泣く王子様を見て、本屋に行くたびにたまごクラブの投稿欄を読んでは自分の満ち足りていないものの一つを埋めていた赤ずきんちゃんは、涙を溢れさせました。そんな赤ずきんちゃんを見ては、「大橋巨泉」などと呟き涙を異質なものに変えるのだからおじいさんは困りものです。異例のペースで成長した王子様は、犬、猿、アクロ バティックとともに、足柄山に登ったっきり帰ってきません。現地では壊れたラケットとラジカセが発見され、同じころ赤ずきんちゃんは三年寝太郎の眠った顔を見ており、おじいさんは何も無くなった家にて手首から流れ出る血で赤ずきんちゃんの顔を描いており、それがちいとも似ていなくて、赤ずきんちゃんはもう行くところまで行くしかない、といった顔つきで、三年寝太郎を愛撫するのでした。めでたしめでたし。