今回、会場で参加者の方を対象に、アンケートを取らせていただきました。快く応じてくださった皆様に、心から感謝いたします。

1. ミステリーを読むときに一番重視することはなんですか?
2. 無人島に本を一冊だけ持って行くとしたら、どの本を持っていきますか?
 (ミステリー以外でも可 シリーズは各巻で1册とカウント)
3. ミステリーを書いていますか?もしくは書いてみたいと思いますか?
4. あなたは、なぜ「ミステリー」を読むのでしょうか
なお、このページではアンケートの結果を踏まえて文章を書いてみようかなとか思いますので、先にアンケート結果にさらっと目を通していただきたいと思います。
アンケート集計結果

ミステリーを読むときに最も重視するものは何か

まずミステリーを読むときに最も重視するものは何かの問いに関してです。極論してしまえば、僕はミステリ好きな人種は二種類の人間にまで分類できると考えているのですが、これはその感覚を後押ししてくれる好例かと思います。

独断と偏見に従って回答を分類します。
Type-1 : サプライズ、ロジック、トリック、結末、謎と解決、(伏線)、(構成)
Type-2 : 文章、バランス、ストーリー、面白さ、etc
さて、この中で最大多数を占めたのが「サプライズ」だったわけですが、つまりは「驚き」(和訳しただけ)らしいです。さらに、二つあった二位のうちの一つが「ロジック」、つまりは「論理」なわけです。この二つが上位に入ってきたのはなるほど、と思いました。

 驚きと論理、どちらもミステリの代表的な要素です。たとえば文章、たとえばストーリー、これらはミステリーではなくても得られる要素ではありますが、結末のどんでん返しに代表されるサプライズ、提示された謎に納得のいく説明を加えるロジックは、まさしくミステリならではと言えるでしょう。ということは、アンケートに答えてくださった(おそらくは)重度のミステリーマニアの方々は、ミステリを読む上で重視するものにはやはり「ミステリであること」を求めるのだろうと。ここら辺は最後の「なぜミステリーを読むのか」の質問でも触れますが「ミステリだからこそ読みたい」のか、「読みたいものがたまたまミステリだったのか」に関わってくるところだと思います。

 この「ミステリに求めるもの」に「ミステリであること」を挙げたのは、僕の分類によればType-1の人です。それが一位と二位を占めるということは、やはり(今回MYSCON)ミステリ好きにはミステリだからこそ好き、という人の方が多いことの傍証となり得るのではないかと思うのです。ちなみに、Type-1で伏線と構成を限定したのは、ミステリならではの構成、伏線が好き、という方がいらっしゃったからです。そもそもこういう注釈が付くこと自体「ミステリー」に拘っていることになりますが。

ミステリーを読むときに最も重視するものは何か

では、続いて無人島に持っていく一冊についての回答です。上位三作品プラスアルファと、それ以外の作品と切ってしまってもこれについての考えは勝手に出てくると思いますが、一応書きます。ここで注意したのは「好きな一冊」ではなく、「無人島に持っていく一冊」であったことでしょうか。おそらく「好きな一冊」あるいは「生涯の一冊」であれば回答はガラっと変わってくるはずです。当たり前に言い換えれば無人島に持っていきたい本は必ずしも一番好きな本であるとは限らないということで、では基準はどこにあるかと言われれば、アンケートの結果から推察するに「どれだけ長く楽しめるか」にかかって来ると思います。

 アンケートの結果がここまで顕著なのはむしろありがたい話で、複数回答の全てが有名な「アンチ・ミステリー(この言葉は危険なのであまり使いたくないのですが)」(虚無への供物、ドグラ・マグラ、黒死館殺人事件、匣の中の失楽)の枠で括られた話で、これらは考えられる限りを尽くして簡単に言ってしまえば、ミステリーのくせに結論がなかったりする内容です。結論が提示されないくせに、ただの未完ではなく、それだけで完成形という反則技みたいな作品ですから、あとは読者次第でいかようにも楽しめます。結論を提示するだけの内容はあるわけですし、かといって正解が一つというわけでもない。頭を使う話ではありますが、長きに渡って楽しむということならば、これに勝る作品群はないかもしれません。アンチ・ミステリについてここで語るには僕の頭が足りなさ過ぎるので、ご勘弁願いたく。(私見ですが、この考えでいくと貫井徳郎の『プリズム』が挙がらなかったのが意外でした。アレは単に推理の幅があるだけで、娯楽としてはどうかという問題だったのでしょうか)

 ここでまた最後の質問についての話に飛びますが、最後の質問で「最後に謎が解明されるから」といったミステリ独特の内容を回答してくださった方は、当然ながら「アンチ・ミステリー」を挙げはしませんでした。ここから逆算的に「アンチ・ミステリー」の定義をするのはあまりにも危険ですが、先ほどの強引すぎる定義の後押しくらいしにはしていいかもしれません。さて、しかし、最初の質問で僕がType-1に分類した「ミステリであること」を重視した要素を挙げた方の中には「アンチ・ミステリー」を挙げた方がいらっしゃいました。これも簡単な話で、必要条件か十分条件かの差異でしかありません。「アンチ・ミステリ」の作品群には最後に謎が解明されないものもありますが、しかしサプライズやロジックがないわけではないということだと思います。

ミステリを書いているか、あるいは書きたいと思うか

では次に、ミステリを書いているか、あるいは書きたいと思うか、のアンケート結果についてです。書いているかについては実に四割以上の方が書いていると回答し、さらに書いていない方の中でも半数以上は書いてみたいと回答されました。また、最後の質問の中には「ミステリを書いてみたいから読む」という意見まであり、執筆に対するミステリーマニア様方の意欲に驚きました。

 ミステリーというジャンルは比較的入り込むのが容易いはずです。読み手にしろ、書き手にしろ。暴論ですが、本格ミステリーにすれば、凄まじいトリックを一つ思い浮かべてしまえば、多少なり文章が下手糞であろうとも書けてしまうものではないでしょうか。他のジャンルと違って、たとえばですし例外も数多すぎるほどありますが「謎がある」→「解決する」という完全な流れが何かを書き始める前に固定されているジャンルはミステリー以外には見当たりません。もっと限定してしまえば「殺人事件」「探偵登場」「推理」「解決」と四つのセクションに分けた模範的な組み立てさえ可能でしょう。初めに越えるべきハードルの低いジャンルなのだと考えますので、明確なデータはありませんが、他のジャンルの読者に比べ、ミステリー読者には「自分でも書く、書きたい」人の比率が大きいと思います。それはひとえに「書きやすい、書けそう」だからなのではないかろうかと。

あなたは、なぜミステリーを読むのか

さて、最後の質問、「なぜミステリーを読むのですか」についてですが、質問が難しすぎた気がします。たとえば僕は幾人かの方と同じように「結末で謎が解決されるという安心感があり、物語が完結する心地良さがあるから」ミステリーを好んで読みます。ですから、メタ・ミステリーやアンチ・ミステリーは実はあまり好きではありません。と、話がそれました。

 最大多数はやはり「面白いから、楽しいから」という単純な答えでした。時間の都合上もあったと思うのですが、やはりなぜそれを好むかという感覚に理由付けをするのを拒む人は多いでしょうし、嫌う人も多いでしょうし、あるいはできないという方もいらっしゃると思いますので、これはもう質問が悪かったとしか思えません。

 さて、ここでは先ほども触れたとおり、「ミステリーであること」に拘っている方とそうでない方とがいらっしゃいます。具体的に「面白い小説の延長上にミステリーがあった」と回答してくださった方は後者の典型だと思います。面白ければ何でもいいけれど、ミステリーに面白いものが多かったから結果的にミステリーを読んでいる。では「なぜミステリーに面白いものが多いのか」という問いをしてみると、これがおそらく「ミステリーであること」に拘った方の回答に繋がってくるのではないかと思います。

 謎→解決という流れがミステリーの大まかな構造になるかと思いますが、その独特の流れをどう感じるかの中に、ミステリー愛好者とそうでない人間との違いが集約されているような気がします。つまるところ、ミステリーマニアという人種は「謎」が好きであるか否かによってのみ定義されるくらいで丁度いい人種で、それ以外についてはアンケートに現れているように十人十色、そもそも「ミステリーマニア」で括ることさえ馬鹿らしいくらいに多様な人たちだったと結論します。