サイキ | わたしたちはなぜ物語を書くのか読むのか、だっけ? |
ぱそ子 | とっかかりが難しいお題なんだよなあ。我ながら。 このテーマを話したいと考えたきっかけは、わたしの周りって理系人間が多くて、読書をしてる人自体は、いっぱいいるんだけど、小説は読まない人が多くて。なんで小説読まないの?って聞いたら、だって作り話じゃん、みたいな感じで言われるんですよ。 |
楽月 | 世の中だって作り事じゃん。よっぽど小説よりも。忘れかけている作り事を書いているんでしょ、みんな。 |
ぱそ子 | みんなって小説家が? |
楽月 | みんな……。映画とか絵とか写真とか創るみんな。フォリオのみんなとか。 |
サイキ | 忘れかけてるってのはどういうことですか? |
楽月 | あっ、僕は小説に新しいものを求めていないから。 |
サイキ | それはいわゆる物語原型みたいなものですか? |
楽月 | 原型って言われればそうなのかも知れない。表現のなんらかはもう出尽くしているような気がします。 |
サイキ | 例えば、曲のコードみたいに組み合わせてみれば新しいものが出て来るかもというようなことでしょうか? |
楽月 | あー、そういうかんじかもしれません。だけどもう新しいコード作る人はいない、みたいな……。 |
サイキ | なるほど。 |
楽月 | でも楽器が変わればね。革命的な楽器があれば。でも小説に道具はない。言葉が少し変わる。舞城さんがやったみたいな。だけど、根源的な部分で新しいことじゃない。 |
ぱそ子 | 確かに小説において、言葉のつながりはさすがに出尽くすには多すぎると思うけど、物語のパターンみたいなのは出尽くしているのかも知れませんね。わたしたちがやってることって、新しい物語を生み出すことではないんだろうなあと、思いますね。 |
サイキ | じゃあ、でも、そうなると更に立ち止まって「なぜ読むんだろう」って考えてしません?「なぜ書くのか」も。 |
ぱそ子 | 楽月さんが言う、忘れかけているものを復活させるため、とか? あと、すでにある物語をちょっとだけ変えてなぞるのって、読むほうも書くほうも、落ち着くというか。基本のメロディー見て変奏曲作るのに似てるかも知れない。 |
楽月 | 僕は伝えたい人がいるから書くんだと思う。 |
サイキ | 具体的に伝えたい人は想定してます? |
楽月 | してない。まずは自分に伝える。そうしないと、言葉がリアルにいかないと思います。 |
ぱそ子 | 自分に伝えるためには、物語を介したほうがいいということでしょうか? 確かに、そのまま伝えても、誰も聞く耳もたないよなあという気はする。 |
楽月 | うん。僕の出し方はそうかな。物語にのせた方が、伝わりやすい。 |
ぱそ子 | 何を伝えたいんだろう。 |
楽月 | 小説の楽しさ。 |
ぱそ子 | たとえば、小説なんて作り話だから読んでもしょうがないよって言う人たちに、小説の楽しさ伝えたいですね。 |
サイキ | そこで問題になるのが、どう伝えるか、ですね。 |
楽月 | ですよね。その人の心に届くものをどう伝えるか。 |
ぱそ子 | やっぱそれは、ここで、小説は楽しいよって叫んでもしょうがなくて、作品を書くしかないんだろうな。ぐいぐい引き込んで夢中になっちゃう小説を。で、その作品の中でどう伝えるかってことは、作り手としての大きな問題で。 |
楽月 | 世界をつなげるのは編集者ではなくて、世界の心でありたい。…意味不明だな最初の世界とあとの世界(社会)がぐちゃぐちゃ。 |
ぱそ子 | なんか迫力はありますよ(笑) |
楽月 | それはもう。編集者のために書くやつなんて気が知れないと実感したから。最近ボツになってさ……。 |
ぱそ子 | その編集者には伝わらなかったんですね。残念ながら。 伝わらなかったとき、相手が悪いのか自分が悪いのかって悩んでしまう。相手がわからなくても、絶対自分ではいいはずで、相手が悪いって思うときもあるし。その数秒後には自分が下手なだけだ……と落ち込んだり。 伝わらなかったときってどんなこと考えます? お二人さん。 |
楽月 | 相手がバカだと思う。そう思わないとやってられない。 |
ぱそ子 | そう、正直なところそういうのもある。でも言わないけど。楽月さんは正直でいいですね(笑) |
楽月 | ごめんなさい。だから損するんです。 |
ぱそ子 | でも本当、そう思わないとやってられない。そうじゃないと、相手がわかるようにわかるようにって下がっていって、ギャグの笑わせどころのセリフを大きな字幕でわざわざ表示させるテレビ番組みたいになる(ような気がする)。 |
サイキ | たぶん僕は自分が下手なんだ誰にもわからないんだって落ち込んじゃう。 |
楽月 | え!!! 下手なんて思っていたら書けない! いや、ありますよ。下手だって思うとき。書いている最中とか。 |
サイキ | でも、それ越して、やっぱり書かなきゃ自分が前に進めないと思う。で、続きを始める。 |
楽月 | 誰にもわからないだろうって威張らないと!!! |
サイキ | ああ、そう、そうなんですね! 威張らないと! |
楽月 | もしかしたら、それこそ、が新しいなにかかも。でも新しくないと思う。世の中そんなもん。 |
ぱそ子 | 威張っているサイキさん想像つかない。 |
サイキ | でも、世の中馬鹿ばっかりって思ってるよ。ほんとは。 |
楽月 | ですよね。自分も含めてそう思います。バカだから書いているんだろうな、とか。 |
ぱそ子 | 自分も含めてか。。 |
サイキ | みんな死んじゃえばいいのに。とか。セカイが滅亡したらおもしろいのにとか。 |
ぱそ子 | 反抗期の少年ですか…! |
楽月 | ぱそ子さんだって少女でしょー。エロについて血迷いながら考えたり。 |
ぱそ子 | 確かに…、万年思春期少女…でありたいな! |
楽月 | 一番、最初に完結させた物語って覚えています? |
サイキ | 5枚ぐらいのから始めたから、覚えています。 |
ぱそ子 | 小学校5年生のときの……ってあまりカウントするような代物じゃないなあ。 |
楽月 | 僕は21歳の時。バス停で待っている人の話。ショートショートで。六つの視点から、二十枚くらい。 |
サイキ | 六つの視点って、語り手は、モノですか? |
楽月 | バス待っている六人だから子供とかお母さんとかジジイとか。 |
ぱそ子 | 六つの視点からってとこが難しそうです。最初に完結させたときってなんか感慨みたいなのがありました? |
楽月 | 天才だと思って調子にのった。 |
ぱそ子 | あはは。大事ですよ、それ。 |
楽月 | で、みんなにみせた。そしたらおーって! 感動してくれた。 |
ぱそ子 | いい反応ですね。 |
楽月 | また別なの読みたいって! |
ぱそ子 | また読みたいって言葉、一番嬉しい。私、物語を完結させるってのは少し特別なことだったな。一個完結したら、レベルアップみたいな。自分の中で。次のステップに進めるという気がした。 |
楽月 | で、僕はますます調子にのった。きっと活字中毒なんだろうな。 |
ぱそ子 | わたしも中毒ですよ。薬屋いったら、成分表示全部読み出して、店から出れなくなる。 |
楽月 | おー!!! すばらしい!!! |
ぱそ子 | すばらしくない!!!困ってます!(笑) |
楽月 | 書くようになると、純粋に読めなくなるよね。 |
ぱそ子 | うんうん、勉強のためという下心が出ますね。 |
楽月 | 勉強……っていうのじゃなくてそうですね。物語を感覚で読めなくなる。そんな感じになりました。 |
ぱそ子 | 分析してしまう?ってこと? |
楽月 | う〜ん。書いているときの気持ちを探ってしまったり? つらかったのかな、とか。スイッチ入れたなーとか。 |
ぱそ子 | へええ。わたしはないなあ。映画見てたらあるけど、ここ撮りたかったんだなあとか。この角度狙ったなあとか。まあ素人なりに。でも小説は、すごく純粋に読者かも。たとえそれが知り合いが書いた作品だったとしても。 |
楽月 | 知り合いのはちょっと違うかも知れない。逆にすごく読者的になる。 |
ぱそ子 | 知り合いの方が読者的になるんですね。 |
楽月 | でも、本になったかたちだったら知り合いのも純粋な読者では読めなくなるかな。やっぱ、印刷原稿は表現者の衝動がぎっしりだからね。ありがたいっていうか気持ちが素直になれる。 |
ぱそ子 | 衝動がぎっしりっていいですね。確かにそうだ。 |
楽月 | 誤字とかに微笑んじゃうでしょ。本だったらむかつくけど。 |
サイキ | そうそう、どんなバンドしてたんですか? |
楽月 | サイキさんって、どこに住んでいるでしたっけ? |
サイキ | 東京の中央線沿い。 |
楽月 | 中央線はブルースですね? |
サイキ | ブルースです! |
楽月 | いいなぁ〜。 |
サイキ | いやー実際、忙しくてあまりライブハウスに行けてないですよ。 |
| (以下暫くブルースバンドネタに花が咲く) |
ぱそ子 | ブルースな小説書きたいですねー。無理? 音楽と小説は違う? |
楽月 | ぱそ子さんは音楽から小説のイメージを作ったことあります? |
ぱそ子 | ないです。逆に、小説の中に音楽のイメージを描写しようと四苦八苦していますが。音楽って、わたしのなかじゃ物語にならない。音聞いて歌詞紡ぐ人ってすごいと思う。 |
楽月 | それは僕もないな……。だから洋楽しかかけない。まぁでも書いているときに音楽流すことは煮詰まっているときだけだけど。 |
ぱそ子 | 楽月さんの小説は、グルーブを感じますよ。グルーブ。音楽のうねり感。躍動感。 |
サイキ | 楽月さん音楽の小説を書いてください。 |
ぱそ子 | サイキさんこそ音楽の小説を書いてくださいよ。音楽とそのデザインのセンスと生かしてさ、なんか作ってよ。新しそうな小説を(笑) |
楽月 | そうだよ!! |
サイキ | にょー。 |
ぱそ子 | にょーじゃねえ! でもふざけるの重要。 |
楽月 | ふざけないとやってられない |
ぱそ子 | 小説? |
楽月 | そう、どこかでふざけた気持ちがないと、書いてられない。 |
ぱそ子 | うん、読んでられないというのもある。 |
楽月 | だよね。あんまりマジメなのは疲れるんだよ! |
ぱそ子 | そうですね。ノーベル文学賞取るような人とか、昔の名作とか、文豪とかってふざけるのが上手いと思う。音楽でも映画でもそうでしょ、きっと。 |
サイキ | そうそう、なんで女装の人を選んだのですか? 受賞作は。 |
楽月 | たまたま見たんですよ。公園で女装している人が写真撮っているのを |
サイキ | ほう。偶然ってすごい。 |
楽月 | それで、なにかに熱狂している人をとにかく書きたくて。ちょうどワールドカップの時期で、普通の銀行マンとか、普段おとなしい人とかが、サッカー場で熱狂してて、こいつら宗教だなって思って。で、宗教的なものをそのまま書いてもね、あれだし……。で、あれに落ち着いたんです |
サイキ | なるほど。熱狂ってその分書く側もテンション上げなくっちゃいけないから,大変じゃないですか? 自分がよく知ってることじゃないばあいは特に。 |
楽月 | いやでした。 |
サイキ | あ、やっぱり。 |
楽月 | そう。妻にいろいろ聞いたりして。「なんでそんなことまで聞くの?」「いや、パンツってどのくらい伸びるのかなぁ〜」とか。 |
サイキ | なるほど。 |
ぱそ子 | 受賞作、わたしは意外に思ったんですよ。あれ、こういうのを書いたんだって。 |
サイキ | 狙ったわけですよね。きっと。あれは。 |
楽月 | エンタメ書いたら、うまいんだぞ!!ちくしょう!!!そんな狂気的な気持ちで書きました。 |
ぱそ子 | それで通っちゃうからな(笑) |
楽月 | 表現手段に小説を選んだ理由は? |
ぱそ子 | 物語を作るってのはずっと子供のときから自然にやってて、漫画とかも描いてみたりしたけど、時間かかって、先に進まないから、小説に落ち着きました。 |
サイキ | 僕も子供の頃から漫画書いたりしてた。音楽やったら、ボーカルもできず詩も書けなかったから,物語へ。 |
ぱそ子 | じゃあサイキさんは、物語より先に言葉があった感じ? |
サイキ | 妄想が先です。 |
ぱそ子 | 妄想か。 |
サイキ | 言葉じゃないんだな……。たぶん。ごちゃごちゃしたものを、どう表現しようかって。 |
ぱそ子 | 言葉は一番最後かもね。イメージや妄想が先か。 |
サイキ | 日本語の詩がすごい苦手で。曲作ろうとしたら、詩がまったくできない。結局ワンコードで延々とギターだけのジャムバンドみたいなのがいい!って。 |
楽月 | 僕はギター→バンド→挫折→でもギター→一人でやろう→詩→歌って聞かせる→歌は下手だけど詩がいいという評価→文章を書く→なんかいいという評価→その気になる→小説が向いているかもとその気になる |
ぱそ子 | 似てますね、二人。音楽から入ってる。 |
サイキ | いや,逆かも。僕は詩がかけないもん。詩をかける人を尊敬します。 |
楽月 | 僕は「詩」じゃなくて「文章」だったという……。 |
ぱそ子 | 手段はどうあれ何か表現しなきゃってのがずっとあったってことですよね。二人とも。 |
サイキ | そりゃー。 |
楽月 | もちろん |
ぱそ子 | で、それが結局小説におちついた。 |
楽月 | そうだね。暗いよね。なんか。流れが。 |
ぱそ子 | いやいや(笑) |
楽月 | たまに思うんだ。オレの人生暗いぞって。なんで小説に魂売ってしまったのかと・・・。だからたまにバランスとってギター弾くよ。 |
ぱそ子 | バランス取るの重要。たぶん何かの形で表現したいっていう欲求はみんな持ってるんだよね。でもみんながみんなきらきらできるわけじゃなく、そういう欲求を満たす代わりに、物語を読んだりするのかもしれない。きらきらしてるのをうらやましいなあって見てる人たちいっぱいいてさ。そういう人たちの一部は、自分もきらきらするぞって表現を磨いて、一部は、きらきらしてるひとの作ったものを楽しむ側に回るのかなあと。もちろん、どっちもってのも。ありで。 |
楽月 | 人間は生まれたときから芸術を始める。三島語録。子供を見ているとすごくそれがわかる。みんな芸術を忘れてながら、落としながら育ってしまう。 |
ぱそ子 | なるほど。歌ったり踊ったり絵を描いたり。そういう忘れかけたものを思い出させるのが物語? あ。冒頭とつながった?(笑) |
楽月 | 三島がつなげてくれた。 |
ぱそ子 | たぶん伝えたいんだっていう強い思いが、自信というか威張る根拠になるよね。 |
楽月 | そうですね。 |
ぱそ子 | 別に誰かに気に入ってもらって本に載せてもらうのが目的じゃない。世界に伝えたいんだ、という思い。伝えたいって思い、子孫残したいみたいなそういう本能かも。 |
サイキ | 小説って面白いんだよ!って伝えたい。伝えたいがために、書くんですね。 |
ぱそ子 | ジャンルとかぶっこわして、今まで本読んだことない人にも、がんがん届かせたい。そうすれば、何で小説読むの? じゃなくて、何で小説読まないの? という人が多数派になる(笑) |
サイキ | うん、そうあって欲しいものですね。 |
ぱそ子 | 結局、自分で作ったテーマのくせに、考えれば考えるほど、読めば分かるよ、書けば分かるよ、という答えに落ち着いちゃいましたね。 |
サイキ | いや、Folioでこういう話ができたのはうれしいと思います。 |