特集:童話 Folio vol.3
イラスト:ミンチ
光の魔法使い冬城カナエ
1 / 2
 エリオットは小さな王国の小さな町で生まれました。
 彼の家は小さな靴屋で、お父さんとお母さんは毎日靴を作ったり、直したりしていました。
 5才になるころ、彼はお父さんやお母さんに喜んでもらいたくて、靴底の革を自動的にくり抜いてくれる機械を作りました。
 お父さんとお母さんはとてもエリオットを誉めました。彼はとても嬉しかったので、もっとすごいことをしてあげられるよう一生懸命勉強するようになりました。

 エリオットが10才になるころ、彼の家に王国の偉い人がやってきました。その人は彼に大きな町の学校に行かないかと言いました。
 学校に通うためのお金がないと言うと、その人はそのお金も出してくれると言いました。
 それで、エリオットは大きな町の学校に通うことになりました。

 学校では、分からないことばかりでした。回りの友達や先生が何を言っているのかちっとも分かりません。エリオットは悲しくなって、家に帰りたくなりました。でも、すぐに新しいことを覚えていくのが楽しくなってきました。そうです、知らないことは覚えていけばいいのです。
 そのうちにエリオットは優等生になっていきました。

 エリオットが15才になるころ、お父さんが病気で死んでしまったので、彼は学校に行くのをやめて、靴屋になることにしました。
 校長先生が学校に残るように彼を説得しましたが、エリオットは学校に通わなくても勉強を続けていくつもりだったので、町に帰り靴屋になりました。
 靴を作りながら、エリオットは一人でいろいろなことを学んでいきました。どうして夏は暑いのか、どうして人は病気になるのか、どうしてこの国はとなりの国と仲が悪いのか。

 そして彼は靴を作りながら、自分の知っていることを人に教えてあげるようになりました。
 いろいろな人がエリオットを訪ねてくるようになりました。近所の人たちから町の反対側に住んでいる人たちまで。やがて遠くの町に住んでいる人や、町の偉い人たちも話を聞きに来るようになりました。
 エリオットは人と話すことが好きでしたし、話をした人が喜んで帰っていくのを見て、とても嬉しく思いました。
 みんなにもっと喜ばれるようになりたいと思い、彼はさらにたくさんいろいろなことを学ぶようになりました。

 エリオットが20才になるころ、王国の大臣が訪ねてきました。そして彼に向かって言いました。
「光の魔法使いさま。大きな町に来て、王さまに仕えてもらえないでしょうか?」
 エリオットはびっくりしました。いつの間にか、彼は『光の魔法使い』と呼ばれるようになっていたのです。
「ぼくは魔法使いではありませんから、王さまに仕えることはできません」
 そういうと今度は大臣がびっくりしました。
「人々はあなたを、全てを照らす『光の魔法使い』と言って尊敬しているんですよ。だって、あなたは一月先の天気を言い当てたり、作物をたくさん実らせたり、死にかけた人を元気にしたり、不思議なことばかりできるではありませんか。」
 
 確かにエリオットは人の病気を治したり、便利な機械を作ったりすることができました。でもそれは彼がいろいろなことを学んで知っているからであって、決して不思議なことではありません。魔法使いと言われるほどのことだとは、どうしても思えませんでした。
 だからエリオットは大臣には帰ってもらいました。靴屋の仕事も気に入っていましたし、沢山の偉い人に囲まれるのは苦手だったからです。
 しかしその後も、大臣は何度も訪ねてきて、一生懸命エリオットを説得しました。
「あなたの知っていることで、この国を豊かにしてください」
 とうとうエリオットは、靴屋の仕事をやめてお母さんと一緒に王さまのところへ行くことになりました。

 エリオットは王さまの側に仕えるようになり、王さまにいろいろなことを教えました。
 王さまはエリオットのことをとても気に入りました。彼が何でも知っていたからです。王さまは何を決めるにも彼に相談するようになりました。
 でも、一つだけ。王さまは彼の言うことを聞いてくれませんでした。
 王さまはとなりの国の領地が欲しくて欲しくてたまらなかったのです。
 エリオットが25才になるころ、王さまはとなりの国と戦争を始めてしまいました。
 エリオットは戦争をしたくなかったのですが、王さまを止めることができませんでした。
 仕方がないので、戦争が早く終わるように頑張って三月で終わらせました。

「おまえはすごいやつだなあ。この世の中におまえの目の届かないところはないに違いない」
 戦争が終わってからも、王さまはエリオットをたくさん誉めました。
「やっぱりおまえは魔法使いだ。これからもずっとわたしに仕えてくれ」
「ぼくは魔法使いではありません」
 エリオットは何度も言ってきたことを根気強く繰り返しました。
「ぼくは靴屋の息子です。たくさんいろいろなことを知っているだけです」
「それはそうかもしれないが、でも今は普通の人とは違うだろう」
「それはたくさん勉強をしてきたからです」
 そう答えると、王さまは声を上げて笑いました。
「たくさん勉強をしたって、おまえのようにはなれないよ。なれるはずがない」
 エリオットはそんなことはないと言いましたが、王さまは分かってくれませんでした。

 でも、分かってくれないのは、王さまだけではありませんでした。周りのいる人々はみんな王さまと同じようにエリオットを普通の人ではなく『魔法使い』として扱いました。
 彼はやがて気づきました。
 人々はエリオットが『魔法使い』になれたのは、最初から頭が良かったからだと信じていたのです。本当は彼が子供のころからたくさん努力をしたから、今のように頭が良くなったのてすが、そんなことは人々の目には入らなかったのです。
 人々はいくら努力してもエリオットのようにはなれないと勝手に思い込んでいたので、誰もエリオットのようになろうとはしなくなりました。
 王さまや王国の人々は彼に相談をするというより、その言葉を待つようになりました。
 やがて王さまや王国の人々は自分で考えることをしなくなってしまいました。