特集:童話 Folio vol.3
イラスト:ミンチ
光の魔法使い冬城カナエ
2 / 2
30才になるころ、お母さんが病気で死んでしまったので、エリオットは王さまに仕えるのをやめて、旅に出ることにしました。
 王国の誰もがそれを止めようとしましたが、彼を止めることのできる人はもう誰もいませんでした。
 『光の魔法使い』でなくなった彼は一人で気楽に旅をしました。
 以前は人にいろいろなことを教えるのが好きでした。しかし今は違います。
 もう『魔法使い』扱いされるのにはこりごりでした。

 35才になるころ、エリオットは旅の途中である女の人と知り合いました。
 彼女の名前はアニーといって、楽器を弾いて歌ったり、踊ったりするのがとても上手でした。彼女は家族が死んでしまったので、一人で歌や踊りを披露しながらお金を稼いで暮らしていたのです。
 エリオットはアニーに歌をつくってあげるようになり、二人はすっかり仲良くなりました。

 エリオットは彼女のことがとても好きになりました。
 今までもたくさんの女の人が彼のそばにいましたが、彼はだれも好きになれませんでした。彼女たちが好きだったのはエリオットではなく『光の魔法使い』だったのですから。
 でも、アニーは違いました。
 彼女はエリオットと普通に笑い合い、普通の人として接してくれました。
 エリオットは彼女となら、ずっと一緒にいてもいいと思いました。
 でも、アニーも同じように思ってくれるでしょうか。不安になって、彼はそのことをなかなか言い出せずにいました。

 ある夜、エリオットが寝ていると、いつの間にかそばにアニーが立っていました。
 彼女は今まで見たこともないぐらい怖い顔をしていました。
 彼は気づかない振りをしましたが、しばらく考え、どうして彼女がそんな怖い顔をしていたのか分かりました。

 エリオットは心を決め、翌朝、思い切ってアニーに尋ねてみました。
「ぼくのせいで、きみは一人になったのかい?」
 するとアニーはわっと泣き出しました。
「そうよ、そうよ。ほんとうはあんたを殺してやろうと思ったのよ。でも、もういいの。あの人も坊やも帰ってこないから。それにあんたも悪い人じゃないし、普通の人だって分かったから」
 エリオットも大好きなアニーを悲しませていたことを知って、心を痛めました。
「君の悲しみを僕にくれないか。その代わりに僕の光をあげる」

 アニーがエリオットを見つめると、彼は微笑みながら指を自分の眼に刺しました。
 彼女はびっくりして、エリオットに駆け寄りました。
「ぼくは『魔法使い』でもいい。君がそばにいてくれるなら」
 目から涙と血を流しながら、エリオットはアニーを抱きしめました。
「ぼくはきみの悲しみをもらった。きみはぼくの代わりにこの世界を見つめてくれ」
 何度も何度も言うと、アニーも泣きながらうなづきました。

 そして、盲目になったエリオットは、アニーとともに旅を続けました。旅先で彼は『魔法使い』と呼ばれたりもしましたが、もう気にはなりませんでした。
 どんなに特別な人のように扱われても、本当の彼を知っている人がずっとそばにいてくれたからです。

 
 その後、エリオットは『放浪の賢者』と呼ばれるようになり、貧しくて弱い人々を助けるために一生をかけました。この小さな王国とその周辺の人たちが、貧しい人でもみな靴を履いているのは、彼とアニーが全ての町を訪れたからだということです。