vol.4

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「彼女の腰のくびれは、男の手を離さないようにできていた」

彼女を後ろから突いているときは、歯を食いしばって大きな枕の中に顔をうずめた。枕の中を通して彼女の声が漏れる。突くたびに彼女は逃げようとするけど、彼女の腰のくびれは、男の手を離さないようにできていた。両手で彼女の腰を固定して、自分の腰元へ戻す。
セックスの時、唯一征服感を感じるのは、後ろから突いている時だけだった。
僕の息が荒くなると、見計らったように彼女は僕の上に乗った。

まるでトランポリンの上に乗っているかのように、彼女は僕の上で飛び跳ねた。髪を振り乱し、狂ったような声を挙げながら、「内臓」まで届いた瞬間にまた飛び跳ねる。
いつもの騎乗位ではなく、彼女は自分の脚で自分を支え、自分の意思で腰を動かす。僕が下から突くことはできない。ただ横になり、下から彼女の形のよい乳房を思い出したかのように揉むだけだった。

彼女の揺れる乳房を、天井に向けられた乳首を見上げながら、僕は彼女とのセックスについて考えていた。彼女の自慰行為について考えていた。
少し窮屈な姿勢で下半身を見ると、彼女の陰部に僕の陰部が吸い込まれていくところが見えた。その向こう側に、男が一人立っている。同時に僕はこの男についても考えざるを得なかった。僕たちのセックスを見ているのか見ていないのか、空虚な視線を漂わせながら脚を組み、僕がいつもセックスの後に座る赤いソファーに座っている。

僕が彼女の部屋に入ったときからその男はそこに座っていたが、気弱そうな学生風の男は僕と視線を合わそうとはしなかった。特に危険な感じはなかったので、僕は声も掛けず、気にも留めず彼女と一緒にシャワーを浴びた。あの男について彼女から何か話すだろうと思っていたが、彼女はいつものように先に身体を洗い、浴室の中で愛撫することを強要しただけだった。

そして僕たちは今夜もセックスをしている。壁のポスターのように貼りついた男など気にせずにお互いの身体をむさぼり合っていた。見られているとう感じがあるのか、彼女はいつもより興奮していた。
最後に騎乗位の体勢で、僕の胸の部分までびしょ濡れになるほど潮を吹いた。
彼女は絶頂を迎えたあと、そのままの体勢で僕の胸についた透明の液体を愛惜しそうに舐めていた。
彼女が僕の胸の上で気を失ったように寝息を立て始めてから、僕は彼女の中から自分の陰部を抜き、ベッドサイドに座り煙草に火をつけた。

男は相変わらず、いつも僕がすわる赤いソファーに腰を埋めていた。僕の存在を無視しているのか、それとも最初から見えないのか、その視線はテレビの上の置時計の辺りに固定されていた。
自分の身体からいつもとは違う匂いがする。彼女が潮を吹いたせいだろう。煙草の火を早々に消し、シャワーを浴びようと思った。
シャワーを浴びた後、不条理だとは思うが、あの男を殴って部屋から追い出そう。彼女とあの男がどういう関係かは知らない。彼女の部屋にいる彼女の男なのだから僕が殴る権利なんてないのかもしれないが、僕はセックスを見られるよりも、いつも僕が座っている赤いソファーを占領されていることが気に入らなかった。

「ねぇ、見てよ」

シャワーを浴びた後、彼女はいつものようにベッドサイドに座って脚を拡げていた。いくらセックスの後に寝息を立てても、シャワーから戻ったら起きているということはもう珍しくはなかった。
僕は困ったような笑みを返し、赤いソファーに座りなおした。ソファーにはもう男の姿はなくて安心した。
男はベッドの上で彼女の背後に座っていた。僕は煙草に火をつける。

「ねぇ、見てよ」

彼女の乳房と陰部に、僕の手ではない手が伸びる。
それは自らの快感に忠実な彼女自身の進化ともいえるし、エスカレートした行動ともいえた。口紅から始まって、香水の瓶、箒の柄、そして今夜は人参にコンドームをかぶせ、今日は「男」という道具を使っている。
とろけるような声を挙げて彼女は僕の知らない男に包まれていった。
彼女がセックスの後、オナニーをする理由はまだわからない。

しかし今日だけは彼女のオナニーを見て、初めて、勃起した。

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[HP]:歪み冷奴
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