vol.4

屈折

3

「江川さん、助かりました!」滝本君が私に向かって微笑みかける。「これ、ほどいてもらえますか。なるべく、僕を見ないように」恥ずかしそうに身をよじって、滝本君は頬を赤くした。それも仕方ないだろう。彼は今、全裸なのだ。
「滝本君」私は足元で眠りこけている橘教諭を見下しながら言った。「今の私たちの会話で、何か気付かなかった? 私、嘘ついてたんだけど」
「え」と滝本君は意外そうな顔をした。寒そうだった。「職業のことですか? 何となく江川さん、興信所ってイメージじゃないんですけど」
「惜しいね、でも正解じゃない。本当に所員だよ。ただ、しばらく休み貰ってるけど」私は滝本君のものを見つめてから、彼に笑いかけた。酷薄そうな笑みに見えるように意識しながら。「正解はね、最初の台詞。ごめんねー、私、君を助けにきたんじゃないんだ」
「え」と滝本君はさらに意外そうな顔をした。けれど、その顔の中に、若干の怯えがあることを私は見逃さなかった。
「ちなみに、とある依頼人なんていうのも全部嘘。私は確かに興信所の所員だけど、この件に興信所は全く関わってない。私の独自捜査ね。まあ強いて言うなら、依頼人は憲二かな」滝本君はここまで聞いて、ようやく気付いたようだった。「そう、橘先生の前の被害者は憲二だったんだ。あの子、私に似て綺麗な顔してるからね。もちろん、登校拒否になったのはそのせい。私の弟をいたぶるなんて、いい根性してるよこの人」私は眠っている橘教諭の頭を踏んづけた。
「あ、あの江川さん」
「ちょっと待って、今全部説明するから。あのね、君、ちょっと鈍すぎるよ。私この場所の存在ずっと前から知ってたし、橘先生が君を狙ってることもずっと知ってたの、君もいい顔してるからね。そうでしょ、そこまではいいよね? なのに、何で大人しく君をさらわせたと思う? なんでもっと早く助けに来なかったと思う? 何でここでされた君と橘先生の会話である”変態”云々の話を知ってると思う? 午前中、私が何してたと思う? 何で私がまだ君の拘束を解いてあげてないんだと思う?」
 立て続けの質問に、滝本君は完全に混乱していた。私は声を出して笑った。部屋の隅においてあったダンボールをどかして、中に入っていたものを滝本君に見せ付けた。
「これ、なーんだ?」
 滝本君は絶句している。私のカメラ、ダンボールの中に仕掛けてあったカメラは、彼のその表情までしっかり記録しているはずだ。
「ね、簡単でしょ。正解はね、君を助けるつもりがないから。私ね、ずーと君たちのやり取り、隠れて見たり聞いたりしてたの。カメラは午前中にここに忍び込んで仕掛けたわけ。けど、こんな女に君を犯させるのは勿体無いから、本番直前に出てきて、こういう状態。OK?」
「……嘘ですよね?」
「残念、ホント。ついでに言うとね、君の初めての相手はこれから私になるんだけど、憲二の初めて相手も橘先生じゃないの。私ね、私。私があの子を犯したの。中学の頃から三日に一回はやってるよ私たち。んでね、私さ、憲二の不登校の理由は聞かされてなかったんだけど、あんまり気にしてなかったの。一日中好きなときにあの子のこと犯せるようになったしね。けどさあ、二ヶ月前、つまりあの子がこの女に犯されてから一年後の日に私が犯そうとしたら、あの子勃たないの。私ムカついてさ、原因を聞いたんだけど答えないの。バカ教師の脅しも一年以上効くなんてなかなかやるもんね。でも、私に敵うわけじゃないねー。いろいろ拷問してとどめに「もうやらせてあげない」って言ってやったらようやく白状してね、このバカ教師の所業が明らかにってわけよ。あの子、もう中毒だからさ、私がいないと生きていけないの。かわいいもんよ。もちろん、君も今からそうなるんだけどね。そんなわけで私、仕事休んで調べたりしたってわけ。あー良かった、あのとき憲二とやろうとしなかったら何も知らずに君も犯されてたんだよね。良かった良かった。これで全部。面白いでしょ」
「……ちっとも」
「減らず口ねー」私はそう言って、滝本君の頬を思いっきり殴った。グーで。ついでにバットで足も殴った。骨が折れない程度には手加減してあげた。私は玩具は大切に扱う主義なのだ。滝本君は悲鳴を上げた。私は笑った。笑いながら服を脱いで、彼のものを舐めて固くした。それから、私の中に突っ込んだ。彼が何か抗議するたびに、私は容赦なく彼を殴って服従させた。
「二度と私に逆らわないようにね。あなたは私の犬なんだから」
 彼は力なく頷いた。
 私は彼の髪の毛を掴んで、顔を上げさせてから、彼の顔に唾を吐きかけた。
「返事はワンでしょ?」
 彼がワンと鳴いたので、私は満足した。それから、もう一度彼に、私の中で射精させることにした。
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ヤマグチ
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