●六月三日
今日、テレビのニュースで最近日本の各地で起きている事件の特集をやっていた。二ヶ月前から何人かの人間が同じ原因で怪死しているらしいのだが、警察はそれらの事件に関してまったく手がかりを得られていないらしい。警察ってのは本当に無能だな。きっとこんな難解な事件でも、ぼくの崇拝する御手洗潔の手にかかれば簡単に解決してしまうだろう。警察の人間は科学捜査に頼りきってしまっていて、もはや彼のように脳をフル回転させて論理的に事象を組み立てていくことができないのであろう。もっとも、フル回転させてもたかが知れてる脳みそばかりなのかもしれないが。
そうだ。ぼくが作家として世間に認められた暁には、警察の捜査に協力してやろうではないか。そうすれば更にうちの家族らはぼくに頭が上がらなくなるだろう。
こいつは名案だ。
その家族はというと、ぼくを従兄弟にでっち上げたあと、さすがに気まずいのか誰もぼくとまともに目を合わせようとはしない。もっとも、最近は食事も部屋に持って来させているので、顔を合わせることはほとんどないのだが。
こっちもその方が、仕事に集中できて好都合ってもんだ。
さて、これからまた例の続きをやろう。
●六月十日
駄目だ。この作品に相応しいラストがまったく書けない。何度か書くには書いたのだが、全体を通して読んでみると、自分の書いた部分の平凡さが浮き彫りにされるだけの結果となってしまう。ぼくは、その度に自分に才能がないといわれているような気がして、書いては破り捨てるという作業を繰り返していた。
もう頭がおかしくなりそうだ。
階下では、また例の男が来ているようで、笑い声が絶え間なく聞こえてくる。
お前ら、そんなにぼくを馬鹿にして面白いか?
ぼくはどうしてここにいるのだろう。
●六月十三日
あいつらを殺してひとりになれたらどんなに楽だろうか。●六月十七日
奇跡が起きた。ついに、ラストが完成したのだ!
すごい、これはすごいトリックだ。まさに前人未到、ぼく以外にこれを考えつく人間はきっと他にはいないだろう。さっき岸和田さんのサイトに行ってみたが、特に変わった動きはないようだ。
やった。これで晴れてぼくがあの作品の作者となるのだ。そう思うと興奮で体中が震えてしまい、いまこれを書くのにも苦労してしまう。
しかし……。
実際にこんな殺害方法が可能なのだろうか。いくら誰もが驚愕するようなトリックでも、あまりにリアリティがなさ過ぎると読者は興醒めしてしまうのではないか。
確認したい。
これで本当に人が殺せるのかを。
「ここまでか?」
男がパソコンから顔を上げて、隣の若い男を見やった。
「はい、ここで終わっています」
「事件の三日前か……」
「やっぱり一連の事件と関係ありそうですか?」
「ああ、まず間違いないだろうな。やっとこれまでの事件の手口が判明したよ。お手柄だ」
「いえ、たまたま友人がこの日記を見てたものですから」
といいつつも、若い男は嬉しそうに照れる。
「まずは、この岸和田ってのが何者かを調べる必要があるだろうな。こいつにどういう意図があったのか至急調べてくれ」
「はい、わかりました」
若い男は部屋を飛び出していく。
男は、再度パソコンに目をやるとひとり呟く。
「身をもって確認しやがって」
了
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