あなたは、クリスマスに恋をしたことがあるだろうか。
クリスマスの恋というのは、なんというか、ちょっと気恥ずかしいところがある。所詮マーケッティングに踊らされているだけの勘違いと、鼻で笑われてしまいそうな。まあ確かに、みんなしてブランドもののアクセサリイを贈り合ったり、真赤な勝負下着を身につけてシティ・ホテルでセックスをしたりという一昔前の風習は、ちょっと、いや、かなり愚かな狂騒かもしれない。
でも、季節は真冬なのだ。空気は凛と寒くて、頬の皮膚は冷たく張りつめる。夜が意外なほどに早く来て、窓から漏れる灯りの琥珀色にふと切なさを覚えたりする。道路に積もった雪が雑音を殺すから、夜の街の空気は、真空みたいに深く静か。その中で、わたしたちは、暖かな場所を守りながら生き延びる。
たとえば、香りのいいお湯を湛えたバスルーム。しなやかな毛布がこなれてとぐろを巻いているベッドのはざま。あるいはひどく乾いて、息苦しいほど密閉された車の中。コートのポケットの小さな空間でもいいし、このさい屋台ですする一杯のかけそばでもいい。自分の持っているささやかな熱を、誰かに分け与えたくなるのがクリスマス、もとい「冬」ではないだろうか。そのときに真っ先に思い浮かぶ顔は、きっと、あなたがとても大切にしている人。たまたま、その人に恋をしているからって、決してそれは、恥じることじゃぁないと思うのだけれど。
そんなわけで、今回はプチ特集、「クリスマス、誰かに贈りたい音楽」。シチュエーションや相手は問わずに、とにかく、クリスマスという日に誰かに音楽を贈るとしたら、誰に何を贈りたいですか? 筆者の友人知人、そしてこの「Folio」の参加者のみなさまに、アンケートをお願いした結果をお知らせします。
回答は
の順で並んでいます。
気持ちを届けたい相手は、特定の誰かじゃなくてもいい。無数の人間同士が、同じ感情のカケラを共有していることもある。世界のあらゆる場所で同時に共振する、音叉のような音楽たちが、見たことも出会ったこともない私たちを、たしかに繋いでいく。
少年のようなジェーン・バーキンに憧れてやまない女の子にも、バーキンといえばエルメスなブランド品ワンコ買いに生きる女の子にも、ロックが死のうがなんだろうがロックで踊り続ける女の子にも、はたまた二次元の世界に迷い込み同人活動に明け暮れる女の子にも、とにかく誰にでもクリスマスは訪れるので、みんなパーティーで、去っていった人たちの名前を−−それはココ・シャネルでも、カート・コバーンでも、ファイブサーティーでも、リバー・フェニックスでも、キャプテン翼くんでもなんでもかまわない、替え歌にして歌ってください、それではどうぞ。
去年のクリスマスイブはコンビニでバイトしていた。別にどうということはないさ、と開き直りながらバイトしていた。明るい店内、いつもより客足は少なかったように思う。エアポケットのような空間に、陽気な有線の音楽が響いていた。そんな中、どこの誰がリクエストしたのか突如流れ出した河島英吾の「酒と泪と男と女」。渋い男の掠れた歌声が、五臓六腑を駆け巡る。「寂しいよな……」その時隣でもう1人のバイト仲間が呟いた。そう、何だかんだ言って寂しかった。クリスマスにコンビニでバイトしているなんて、侘しかった。強がった心を剥き出しにした、河島英吾の歌声とフレーズは、あの時無性に心に沁みた。っていうかクリスマスに河島英吾を有線にリクエストした人、ある意味勇者だ。今年は自ら、クリスマスにコンビニで働く人達に向けて有線にリクエストしてみようかと企んでいる。
記念日というのは、要するに、記憶を刻むためのグリッドのようなもの。個人的な記憶とユニバーサルなグリッドが交差するとき、忘れたくない出来事が、人生の中のひとつの座標としてくっきりと描かれる。それは地図の上にピンで刺した旗のように、いつまでも鮮やかな色合いと痛みを伴いつづける。
謝らなければならない人がいるのです。今でもあの灰色の空の下で、生きているかどうかも知れない人ですが。私がいたのは確かに、許す立場だったかもしれない。でも、許しを請うて涙まで流させる必要はなかった。そんな報復を望んでいたわけじゃない。
贈りたいのはグールドのラスト・レコーディング。激情も悲哀も瞑想も、すべてこの一枚の中に語られている。自分の中にわだかまっているどんな醜い感情もすくい取って、聞き届けてもらえるのではないかと信じることのできる音色。あまりにも長い時間が経ってしまった謝罪を託すには、清廉すぎるかもしれないけれど、知り得る中で、おそらくこれが最も美しい音楽だと思うから。もう二度と会うことのない人です。姿を見せることなく、ただ音楽を一つ届けることができるなら、凛としたヴァイオリンではなく、深い自省を込めたピアノを届けたいと思うのです。
80年代後半、日本の音楽界に革命を起こしたアーティスト、TM Network。そのピアノ・ギターパートを担当していた木根尚登さんが'92年にリリースした1stソロアルバムです。今はTMNを中心に、小室哲也さんがテクノ、宇都宮隆さんがロック、そして木根尚登さんはバラードを中心としたソロ活動を続けています。(あと、執筆活動もしています)
このアルバムは全6曲で構成されているのですが、その中でのオススメなのは2曲目の『泣かないで』です。クリスマスの夜に二人きりになれない、遠距離恋愛の恋人を描いたフォークポップス(?)ナンバーで、ゆったりとしたテンポ、まるで物語を語るかのような歌声と、ちょっと昔を思い出させるようなベースとピアノのメロディーが、寒い風が吹く中でも暖かさを感じるでしょう。
このCDをいつか、ボクの好きな人とその恋人が、クリスマスイブに聴いていて欲しいなぁと思っています。どんなことがあっても泣かないで、笑顔の君が好きだから。そんな想いをこの曲と一緒に贈ります。
音楽は時間と空間を満たす。その場にいる人は同じアトモスフィアーを呼吸する。「同じ釜の飯を食った仲」という言葉があるけれど、「同じ音空間を共有した仲」というやつ、これもなかなか、親密の度合いが濃いのではないのだろうか。
パーティ気分特有の楽しさを前面に出しつつも、やはりどこか彼ら(というより作者のB.Willson)の持つ切なさが見え隠れする素敵ソングです。
ビーチボーイズは能天気な夏のバンドじゃないということを伝えたい意味合いもありますが、何より自分は、どうしようもなく彼らの曲を愛しているのです。そして、愛しているモノを愛している人と分かち合うっていうの、最高じゃないでしょうか。
柔らかいピアノの音で奏でられる、心地よい曲達。
あったかい音楽を聴きながら
ゆっくりと時間が流れて、
他愛の無い話で夜更けまでおしゃべりしたいな。
いつもはブラック派だけど、ミルクたっぷりのコーヒー飲みながら。
この友情がずっとずっと続きますように。
おそらく男である僕は、大したイケメンでも金持ちでもない。多分にワーカホリック気味で、クリスマス・イヴだって遅くまで残業しているに違いない。それでもまあ、好きな女の子がいれば、今日くらいちょっと恰好つけさせてくれよ、ってな気分になって、こんなCDをクルマの中でかけたりしていそうな気がする。
セイクレッド・ラヴ、聖なる愛。聖夜にこれほど相応しいタイトルもないじゃないか?それでいて中身は決して甘ったるいものではなく、暗さとスピードとポジティブな鋭気が全体に渦巻いている。
中から1曲選ぶなら、スティングとメアリー・J・ブライジのデュエット「Whenever I say your name」。曲自体は割と素直なデュオナンバーだけれど、ヴォーカル2人の声、パンチがありつつ、何処か「痛い」感じを残しているのがメチャクチャにいい。もしも僕が男だったとして、好きな女の子なんか傍にいなかったとしても、いつか出会うかもしれない「彼女」が、これほど強く儚い声の持ち主だったらと想像するだけで、きっと、幾らかは救われる。腹立たしいほど寒い季節、この最低な世界を生き抜くために、神様よりも純な愛にすがることができたなら。それ以上の贈り物は、たぶん、他にない。
鏡の中に絵を描くように、自分自身に何かを与えたり、教えたりすることができるなら? もしもサンタクロースが自分自身だったなら? 望みどおりの贈り物が、間違いなく枕もとに置かれるのかもしれない。もしもあなたが、自分の欲しいものをきちんと理解してさえいれば、の話ではあるけれど。
クリスマスの思い出はですね、小さい頃、サンタさんへのお願い事を書いた紙を枕の下に入れておいたのです。そしたら、翌日に起きてみるとまだその紙が残ってまして。サンタさんが持っていってくれなかったと大泣きしたものです。
そんな純粋な少年時代に「赤鼻のトナカイ」の歌詞で、「暗い夜道は、ピカピカの…」という節をひたすら「暗いよ、道は。ピカピカの…」と思い込んでおりまして。道が暗いのはわかったけど、どうしてトナカイさんの鼻が役に立つのだろうと不思議に思ったものです。句読点で仕切られていると思って、連想できなかったんですね。そんな彼に、優しく真実を教えてやろうと思いまして。あの頃は可愛かったもんでしたよ。
まず、思考がウザイから結論まで飛べ。
〇思考:誰かにCDを贈るというのは、その誰か、というのを特定しないと始まらないわけで、勿論、仲が良い人の音楽趣向を分かった上で、それを渡すという作業なのだけど、じゃあ何か、といわれると、すごい困ってしまう。相手の好きな音楽の方を優先するか、「これを聴け!」と押しつけるかという態度によって、それはまるっきり違ってくる。とはいえ、CDを贈るという行為は、どこか「自分を分かってほしい」という自意識過剰的な意識があるわけで(相手が好きなものをそのまま贈るというのであれば簡単。ただ相手が好きなものを選択すればよい)、それを言えばあらゆるプレゼントの類の意味を考えてしまうが、いや、そもそもプレゼントというものは、欲しいと思えるものを渡す、と言うのがいいとも言うじゃないか。そうなるとやはり逆に開き直って、自分が好きなものを選択して悦にはいるということになる。
〇結論:やはり好きなミュージシャン、好きな曲を選ぶというベタな選択をします。
B.B.KINGのクリスマスアルバム「クリスマス・セレブレーション・オブ・ホープ」の一曲目。
「プリーズ・カムホーム・トゥー・クリスマス」。まあ「クリスマスだから、帰って来いよ」っていうなんでもない曲なんですが、この曲はR&Bでは時々取り上げられる曲で、一番最初に聴いたのはジョニー・ウィンターの「Hey, Where's Your Brother」というアルバムで、弟エドー・ウィンターが参加してサックス吹いてて、これがまた痺れるし、良いアレンジで。そういやリック・デリンジャーって今何やってるんだろう?とか思わないでもないのだが、まあ、誰の曲か分からず気に入ったわけだ。そうこうしてるとテレビで「ホームアローン」やってて、中の一シーンに使われてるんだよな。この曲。でもジョニー冬ではなくて、カントリーぽい歌い方のおっさん。と思ったら、サウスサイド・ジョニー。サウスサイド・ジョニーといえば、ブルース・スプリングスティーンなわけで。もう分からん。元の曲が誰だか当時はさっぱり分からず、まあ、普段は忘れてたわけでしたが。そういや、イーグルスもカバーしてた、とか思って、気になった時追っかけてた。
最終的には、それがチャールズ・ブラウンの曲だったわけで、チャールズ・ブラウンはサム・クックと「ブリング・イット・オン・ホーム・トゥー・ミー」とか共作しててるぐらいだから、あの時代の人で、確か数年前死んだ。確かゲイだという噂が。名曲を多く作ってる作曲家です。
んで、この記事書くために検索したら色々出てきて、アーロン・ネビルもカバーしてる。パット・ベネター、ローンスター(カントリーの人?)、どうやら、ハンソンとかマライヤ・キャリーも歌ってるが、同名別の曲のようだ、とか。まあ、そんな感じで、なんだか知らないうちに好きになってた曲のひとつです。