vol.4

彼の文字列

「座って。脚を開いて」
 彼が耳もとで囁く。私は、せまいトイレの洋式便座の蓋の上に腰掛けると、後ろ手に身体を支え、ゆっくりと脚を開いた。
「こんなに染みをつくって、どうしたんです?」
 フゥっと吹き掛けられた息がヒヤリと感じられて、思わず息をヒッと飲む。まだ触られてもいないそこがグッショリと濡れていることが、わかる。
「まだ何もしてないのに、こんなにして」
 彼の指が、中央に伸びかけて、止まる。
「いやらしいなあ」
 意地悪く笑って、彼は上目づかいにこちらを見た。
「ヒクヒクしてるよ」
 下着ごしにわかるわけがないと思いながら、その言葉に、またトロリと溢れるのがわかる。
「だって…」
「だって、なに?」
 言いながら、彼の指が再度のび、止まる。
「あ…くん…ッ」
 こらえきれずに声が出た。
「なんですか?」
「……」
 何も言えず、私は顔をそむけた。
「どうしました?」
 指は、下着と脚のつけねの境界線をゆっくりと行き来する。
「……って…」
 絞り出すように言った私に、彼は冷笑で答える。
「ちゃんと言わないと聞こえませんよ」
「さ…わって…」
「ん?」
「さわって…ください」
 指は、そのまま内腿へと置かれた。
「どこをさわってほしいのか言ってくれないとわかりませんよ?」
「…いじわるなこと…言わないで」
「しょうがないなあ」
 ツン、と指先が触れ、すぐに離れた。
「はい、触りましたよ」
 つま先から、頭のてっぺんまで、電流が走ったような感覚だった。思わず腰がはねる。たまらず、やだぁ、と口走っていた。
「なにがやなんです?」
 狂わんばかりのこちらとは裏腹に彼は冷静な声で耳もとで言う。その冷たい声が、火をつけた。
「お願い、さわって。あそこ、さわってぇ」
 その瞬間、下着のすきまから、彼の指が入ってきた。クチュ、という音と共に一気に奥まで指が突き進む。
「あぁっ」
 思わず声が出る。自分でもアソコがヒクヒクと動くのがわかった。
 その時だった。ドアが開く音と共に、数人の足音と話声がドヤドヤとトイレの中に入って来た。思わず身を固くして聞き耳をたてる。その声は、あきらかにさっきまで一緒に飲んでいた人たちのものだった。
「彼女、大丈夫っすかねー」
 飲めないお酒を飲んで気持ち悪くなったと言って席を離れたことを思い出す。やばい、と彼に目で訴えようとした瞬間、挿れられたままだった指が、ゆっくりと動き出した。
「…!」
 ゆっくりとかきまわすような動きをする指に、自分の身体が応えてヒクつくのがわかる。声が出そうになって、あわてて下唇を噛んで、私はイヤイヤと首をふった。彼は動きを止めようとしない。それどころか、もう一本の指が下着の中にさしいれられる。
「本当にお酒飲めないとはねー酒豪っぽいのに」
「ほんとっすよね」
 二本の指が、ゆっくりとねじれながらバタ足をするように中で動かされる。
 クチュクチュという音が、会話の合間にトイレ全体に響いているようで、私は羞恥で首まで熱くなるのだけれど、どんどんとそこに集中していく神経を止めることができない。
 懸命に声がでないようにこらえる私の首筋を、彼の舌が舐めあげた。たまらずヒッと息を吸う。
「聞こえちゃいますよ」
 面白がるような彼の囁き声。指が入り口付近を派手にかきまわし、グチャグチャという音があきらかにトイレにこだまする。
 外で用を足していた二人の会話が一瞬止まったように思えて私は思わず彼の肩を掴んでしまう。それが合図だったかのように、彼は再び指を深く埋めると、今度は上壁をゆっくりゆっくりと奥から手前へかき出し始めた。反対の手が、乱暴に着ていたセーターを押し上げブラを押し上げ、あらわになった胸を下から掴む。
 フッフッと息を逃しても、どうにもならなかった。
 下腹部に力が入るのが自分でわかる。背中が反り、腰が浮く。頭の中に白いスクリーンが降りてくるような感覚。
 トイレに来ていた二人が出て行くのが気配でわかる。
「お願い」と早口で言った瞬間、指が抜かれた。
「……!?」
 あとちょっと、というところで抜かれた指を求めて、腰が動く。
「すごい格好ですよ」
 服を半分脱ぎ、下着をぐっしょりと濡らし、便座の上に腰を突き出して弓なりになって座っている私を彼の冷たい目が見下ろしていた。恥ずかしい、と思うよりも先に、口が「イかせて」と哀願していた。
「お願い、イかせて」
 けれども予想に反して彼の指は入ってはこなかった。溢れる愛液でドロドロになり隆起している突起をそっとこする。
「やぁ」
 一度声を抑えた反動のように、声がでた。かまわず彼は触れるか触れないかというタッチでクリトリスを責める。同時に、むき出しになっている胸の突起が口にふくまれた。舌全体で押し潰し、チロチロと嬲り、ずずずっと音を立てて吸われる。
 背筋をゾゾゾっとなにかが駆け上がった。
「やだやだやだやだ」
 彼は答えない。
「挿れて。お願い。挿れて」
 指が入ってきた瞬間、呼吸が止まる。
「すごい。ぐいぐい呑んでるよ」
 身体が自然にのけぞる。入り口の肉が収縮するのがわかった。耳鳴りがする。

 何くわぬ顔で彼は先に席に戻って行った。しばらく時間をおいて私ももどる。
「大丈夫すか、顔赤いですよ」
 と心配顔で言ってくれる人に、まだお酒が抜けきらなくて、と答えながら(吐いたら普通は真っ青になるんだけどね)と自分でつっこみを入れた。

『続きは店を出てからね』

 彼の声がこだまする。長い夜になりそうだった。

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ことこ
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