vol.4

エロビデオの作り方

2 『キャスティング』

 女優のキャスティングを考える際、もっとも大事なポイントは予算との兼ね合いである。有名な女優や見栄えの良い女優を使えば、そりゃある程度は売れるだろう。だが100万の女優を使ったとして、それを1本1500円程度の卸値でペイするのに何本売ればいい?なんと女優代だけで600本以上売らねばならないのだ。これが1タイトル出せば数千本売れるような大手メーカーならまだいい。だが、私が在籍していたような1000本売れればヒットというような弱小メーカーでは・・・。当然、女優代以外にもかかる諸経費は山のようにあるので、経費を取り返すだけで「1000本売りましょう」ということになってしまう。そう、一部の大手メーカー以外では、理想は理想として置いておいて、安い女優を使っていかに売るかという勝負になってしまうのだ。女優のキャスティング次第で、企画の内容ががらりと変わってしまう場合も多々ある。最初に書く企画書はあくまで理想論であって、この女優のキャスティングとの兼ね合いで、実際の『形』が決定すると言ってよいだろう。

 また、女優は基本的にプロダクションに所属しており、このプロダクションとの間で悲喜交々のやり取りが発生する場合もある。「アレをこうするからまけてー」だの「この子とあの子でこの値段にしてー」だの、気分は人身売買である。女優は物だ。消費物だ。悲しい現実だが、よほど自分をしっかり持った女の子でないと、あっという間に消費し尽されてサヨウナラなのである。(ごめん、話がすっ飛んだ・・・。)

 それとあまり重要視されないポイントなのだが、男優のセレクトにも気を配るべきだ。どのメーカーのどの作品を見ても同じ人間が出ているという現状は、明らかにおかしいと思う。物作りをしているという自覚のある人間が少ないというのもあるが、実は男優を探したくても探す手段が無いというのが一番大きな原因なのだ。男優は女優と違ってプロダクションが無く、ほぼ全員がフリーなのである。キャスティングを決める際も、人脈を辿っていって、たまたま引っかかった人間に依頼するしかないのだ。当然、女優のような写真付きのプロフィールなど存在しない。これでは作品ごとにベストな人選を・・・など夢のまた夢な訳で。これはAV業界の恥部の一つと言えるだろう。

3 『撮影スタッフの確定』

 スタッフにはメイクやカメラマン(基本的にVTRと写真で別)、照明、ADなどがおり、そのほとんどがフリーで活動している。監督やプロデューサーのコネで集まってきて、今日はこの現場、明日はあのメーカーの現場というように渡り歩く人たちなのだ。仲の良いスタッフを確保しておくと、会社に提出する稟議書の人件費をごまかして予算をちょろまかしたり出来るので便利。いや・・・オレはやらないが、やる監督は凄く大勢いる。いやな業界だ。

 またスタッフにギャラを払わないとか、現場の仕事がいくらなんでもキツすぎるとか、スタッフへの配慮がまったく出来ていないなど、かなり悪どいやり方をするメーカーがある。こういった悪徳メーカーの悪い評判は、フリーのスタッフ達から様々な現場に漏れ、最終的にプロダクションが女優を貸してくれないとか、自前で社員やアルバイトを揃えないとスタッフが集まらないなど、当然の報いを受けることになる。幸い、私が参加してきた現場は『三代目葵マリー姐さん』が目を光らせていたため、かなりアットホームな良い雰囲気だった。こういう現場での良い評判も、悪評と同様にフリーのスタッフ同士の間で広まっていくので、業界内での信用に繋がっていくのである。

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