◆対談:相対性理論と100年後の現在◆
waste
■相対性理論と慣性の法則
- Ozawa:
- 今回のfolioのテーマは「100年」なんだけど、何で相対性理論のコラムなの?
- waste:
- 相対性理論とはアインシュタインの複数の論文で構成されているのですが、その最初の論文が発表されたのが今から丁度100年前の1905年なのです。
- Ozawa:
- 相対性理論って一般相対性理論と特殊相対性理論があるけど、どう違うの?
- waste:
- その区別を説明する前に一つ確認させて下さい。「慣性の法則」は分かりますか?
- Ozawa:
- 摩擦とか余計な力が働いてなければ、止まっている物は止まり続けるし、動いている物は動き続けるってアレでしょ。
- waste:
- そうです。でもこの法則はいつも正しいわけではありません。例えば自動車を運転していて急ブレーキをかけた時、車内の人は前のめりになります。車外の人から見れば、車内の人も車と一緒に前進しているのですから、慣性の法則に従って前のめりになっているわけです。しかし、車内にいる人にとっては突然、正体不明の力で前に引っ張られているように感じられます。つまり車内の人からすれば、慣性の法則が成り立っていないわけです。ここまでは分かりますか?
- Ozawa:
- 早速込み入った内容になってるけど、まあ、なんとなくは。加速とか減速しているような時は慣性の法則が成り立ってないってことだよね?
- waste:
- ええ。この慣性の法則が成り立っているような状況はある種、限定的な状況、つまり特殊なケースを扱っているので、特殊相対性理論で説明されます。慣性の法則が成り立っている時も成り立っていない時も包括的に扱えるのが、一般相対性理論なのです。
相対性理論の入り口としては、特殊相対性理論が良いでしょう。
- Ozawa:
- なんで?一般的な物を扱ってから、特殊なケースをやった方が良いんじゃない?
- waste:
- 初等物理学でも、摩擦が働いてない状況などの、特殊ではあるけど考えやすい簡単な状況を扱うでしょう?同様に、簡素化された状況を扱う特殊相対性理論の方が入門には適していますよ。
■動いていると時間が遅れる
- Ozawa:
- ねえ、相対性理論だと移動してる方の時間が遅れるって話があるでしょ?個人的には、人によって時間の流れが違うといった話に興味があるんだけど。
- waste:
- 正確には「遅れて見える」なのですが。
ともあれ時間の遅れについてですね。分かりました。では特殊相対性理論でその話をしましょう。
慣性の法則が成り立っているということは、止まっている物は止まっていますし、動いている物は加速も減速もせずに運動しています。
- Ozawa:
- うん。等速運動をしているってことね。
- waste:
- そうそう。むつかしい言葉を知っていますね。
では、相対運動というのはご存知ですか?
- Ozawa:
- 動いている人から見たら、止まってる人も動いて見えるってことでしょ。
- waste:
- そのとおり。慣性の法則が成り立っている世界では、皆、等速度で相対運動をしているということになります。
そのような状況で、「止まっている人から見れば、動いている人の時間は遅れて見える」のです。
相対運動なので、動いている側の人にとってみれば、立ち止まっている人が動いて見えるし、そのような状況ではやはり相対的に動いている方の時間が遅れて見えます。
- Ozawa:
- 分かりづらいよ。
- waste:
- 極端な例を挙げれば、立ち止まっている人が持つ時計が2秒動いている間に、動いている人の時計は1秒しか動いていない、立ち止まっている人にはそのように見えるのです。
逆に、動いている人から見れば自分の時計が2秒動いている間に、立ち止まっている人の時計はやはり1秒しか動いていないように見えるのです。
- Ozawa:
- 実感ないんだけど。
- waste:
- 相対運動の速度が光速に近づかないと、時間の遅れは顕著にならないので、日常生活では見えてこないのです。
- Ozawa:
- 入門書では、ロケットとかよく出てくるけど、そんな話はしないの?
- waste:
- 入門書でロケットが登場するのは、ロケットならかなりの高速に到達できるので、時間の遅れの例が分かりやすくなるという考えなのでしょう。ありきたりな例なので避けていたのと、日常生活でも実際には時間が遅れているのだということを言いたかったので、あえてロケットの例は使いませんでした。
- Ozawa:
- 日常生活でも遅れて見えるんだ。
- waste:
- 理論上は。恐らく、日常生活で時計が狂う量よりも影響は少ないでしょうけど。
- Ozawa:
- それって「見える」って言わないと思う…。
■双子のパラドックス
- waste:
- ロケットの話が出たので、有名な双子のパラドックスの話をしましょう。
- Ozawa:
- お!パラドックスって言葉に心ひかれるよ。そういう話題を待ってたんだ。
- waste:
- 双子のパラドックスでは「双子の弟が地球に残って、兄がロケットで宇宙に行った」という状況を想定します。先程話したように、互いに高速で相対運動をしているので、一方から他方の時間が遅れて見えます。何十年もロケットを走らせれば、相手の方が時間の進むスピードが遅いので、お互いに自分よりも相手の方が老化が遅い、つまり結果的には相手が若く見えるようになります。ロケットが途中で引き返して、地球で双子が再開した時に、互いに相手が若く見える状況はあり得ません。従ってパラドックスである、即ち理論が破綻しているとして特殊相対性理論は批判を受けました。
- Ozawa:
- 確かに双方が若く見えるってのはおかしいね。
- waste:
- しかしそれは両者が対等な場合という前提があっての話なのです。
実際にはロケットが地球に引き返す時、一旦減速して方向転換し、再び加速しなければなりません。単純なヘアピンカーブの軌跡を描くような状況を想像してください。ロケットから見れば、地球が同様の奇跡を描いて近づいてくるように見えます。
でも両者には決定的な違いがあります。ロケットが減速・加速をする時、ロケットに乗り込んでいる双子の兄はそれに伴って前のめりになったり、後ろにのけぞったりする力を感じます。でも地球にいる人はロケットが反転する時に、別段、力を感じたりはしませんよね。ここで双子の対象関係が崩れます。
- Ozawa:
- それって、さっき出てきた慣性の法則が働かないケースのことだ!
- waste:
- よく覚えていました。そのとおりです。
つまり、ロケットが反転する場合というのは、特殊相対性理論ではなくて、一般相対性理論で扱うべきシチュエーションだったのです。
一般相対性理論のキー・ポイントとして、「重力を感じている人の時間は、感じてない人から見ると遅れている」ということと、「加速・減速で感じる力は重力と同等」ということがあります。
- Ozawa:
- どちらも"G"って言うもんね。
- waste:
- それは単に、地球上の重力の強さを基準にした力の単位というだけの話なのですが…。
ともあれ、加速度運動をしている兄は、地球にいる弟から見ると時間が遅れて見える。即ち、兄の方が老化が遅いということになります。双子のパラドックスの解は『再会した時には弟よりも兄の方が若い』です。
- Ozawa:
- じゃあ、加速度運動をし続ければ長生きできるね。
- waste:
- 加速度運動をしている人も感じる時間の流れは同じです。ですから、加速度運動をしているからといって、加速度運動をしている人自身からすれば寿命が延びたようには感じられないでしょう。
- Ozawa:
- この重力下の時間の遅れって本当なの?理論的帰結のこじつけみたいに感じるんだけど。
- waste:
- GPSは知ってますね。GPSの衛星は地球の周囲を回転しています。即ち、GPS衛星は地上に対して高速移動をしています。これにより、私達とGPS衛星は特殊相対性理論により互いに時間が遅れて見えます。同時に、地上よりも地球の重心から離れているので私達よりも地球から受ける重力は弱いのです。だから一般相対性理論により、GPS衛星よりも地上にいる私達の方が時間が遅れていることになります。逆に言えば、GPS衛星の時間は進んでいることになります。
地上にいる私達からすると、GPS衛星の時間は特殊相対性理論による遅れと一般相対性理論による進みの差し引きで計算されます。後者の方が大きいので、GPS衛星の時間は地上よりも進みが速いのです。それを見込んで、GPSでは理論で算出される数値を補正して位置を計算しています。
結果の正しさはカーナビを使用すれば分かりますよね。
- Ozawa:
- 時刻が間違っていれば、正確な位置も割り出せない。カーナビが機能してるってことは時間が正しく補正されているってことなのか。
■ブラック・ホールとホワイト・ホール
- Ozawa:
- ねえ、ほかには?
- waste:
- 宇宙論にも多大な影響を及ぼしました。例えば、重力が空間を歪ませ、光の経路も変化させるというのは知ってますか?
- Ozawa:
- すごく重力が強くなると光も脱出できなくなって、ブラック・ホールができるってやつだよね。
- waste:
- そうです。ブラック・ホールを直接観測した例はないですが、間接的にその存在を裏付ける観測結果が幾つもあります。そのほかに、宇宙が膨張しているという理論的帰結から、逆に宇宙の始まりは小さな1点に集約されていたというビッグバン理論も生まれました。
- Ozawa:
- ねえねえ、ホワイト・ホールはあるの?
- waste:
- ブラック・ホールが吸い込んだものはどこへ行ってしまうのか。その疑問に答える仮想的なツールではありますが、相対性理論ではその存在は予想されていませんね。天体観測でもそれらしい存在は見付かっていないようですし。
ホーキングは、ブラック・ホールは吸い込むだけではなく、物質を放出していつしか蒸発してしまうという結論を量子論から導き出しているようです。
ちょっと話題がずれてしまいましたね。
■おわりに
- Ozawa:
- ここまで相対性理論の話をしてきたけど、結局のところ、この100年でどんな影響があったの?
- waste:
- まず時間の認識を劇的に変えた、ということが挙げられるでしょう。かつては、時間はいつでもどこでも同じように流れていると考えられていました。
- Ozawa:
- 色々話を聞いてきたけど、それで特に違和感を感じないんだけど。
- waste:
- 確かに。そう考える方が実に自然に感じられます。でも、これまで幾つか例示してきたように、実は時間の流れは各人との間で差があることが相対性理論で証明されています。
- Ozawa:
- 日常生活ではほとんど実感できないってことだったっけ。
- waste:
- そう。相対性理論は、時間に加えて、空間も一様ではないという意識の変革をもたらしました。
- Ozawa:
- 重力のせいで歪んだりするもんね。
- waste:
- ずっと直感的な印象に基づいて、一様不変だと思われていた時空の考え方を根本的に変更したというのが相対性理論の成果でしょう。しかも相対性理論では時間と空間は独立した抽象概念ではなく、互いに影響しあう物理的実在として扱われています。
時間はただ私達の脇を通り抜けていく存在ではなく、空間は我々の単なるバックグラウンドではないのです。私達自身も重力を発生させていますし、その重力はたとえ僅かであれ、時間と空間に影響を与えているのです。
- Ozawa:
- お、何だか綺麗にまとまったようだね。
- waste:
- ちょっと狙ってみました。今回は対談ありがとうございました。
- Ozawa:
- こちらこそ。
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- waste
- 猫とケーキを愛しています。が、最近、猫の愛情に飢えてます。要補給。今回、物理を齧っていたのでこのテーマで書かせてもらいました。文章を書く楽しみを再発見してみたり。
- URL:灰色の日記
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