本文目次など
one hundred years

おいしい水

サイキカツミ

マインドシンコペーション

 友人の葬式のあと、響が電話をかけてきた。参列した友人たちと多少飲んでたが、あまり喰えなかったしそのまま帰るのもなんだか気分が悪いので電話の内容は「飯を喰おう」だった。そりゃそうだと僕も思った。その友人はもう30も手前になるのに、ビルの上から飛び降りて死んだのだそうだ。何が原因だかわからず、遺書もなかったみたいだ。僕と共通性はない学生の頃の友人に、久しぶりに会ったのがこんな日だなんてと多少愚痴っていた。そうか、でもまあ仕方ないよ、飯、何喰おうなどと話ていると不意に電話が遮断した。すぐに「ごめんごめん」トンネルをくぐったからと響からで、電話の後ろから雑音めいた乾いた音が聞こえてきた。
「……ウォーキンベース」
「え? 何? 聞こえない」
 響は駅前に出たらしい。ギターの音は雑踏に惑わされた。
「いや、なんでもない。音が聞こえたね」
「ああ、なにかガードの下でやってる人がいたわ」
 ギター? うん。たぶん。そう言って近所の駅に着いたらまた連絡するねと電話は切れた。
 実際に駅前にやってきた響は案外元気で、焼き肉が食べたいと言った。僕はなんだか笑ってしまって、健康的でいいよと苦笑した。世界はこちら側とあちら側があって、こちら側からあちら側に移行するのは、案外容易い。もちろん思い切りも必要だけど、死んでしまっても意識や思いは残る、と思っている。僕は幽霊は信じないけど超自然的なものって、ある程度まで信じてもいいんじゃないかなと思ったりするのだけど、だって女の子自体、男にとって超自然じゃない? みたいに冗談めかしたりする。
 でもね、と響は浮かない顔をした。
「わたし、あの子の幽霊に出会ったらやっぱり落ち込んだりするわ」
 ハラミが焼けてるのを箸で摘んで響の取り皿に乗せてやった。
「ありがとう」
「そりゃ、ね」
 相づちを打ちながら、その子の話を聞いた。とてもお金持ちの所に嫁いだのだけど、どうやら夫婦仲は良くなかったらしくて、子供もいたのだけど障害を持っていたのらしい。でも、そんな子供がいて、死んだりするんだ、というのが僕の感想だったのだけど、本人にしか分からないことだよね。仕方がないよと紛らわした。
 誰だったか忘れたけど、日本のシステムって人を幸せにしないっていうようなことを言ってたなと僕は思う。タン塩は旨いけど、確かに僕らは若いうちだけが華だと教え込まれていて、今しかできないことを一生懸命にこなしてるだけのように思えてくる。誰かに急かされ課題を与えられて毎日その課題をこなして、じゃあその課題は一体なんのためにこなさなければならないのかはっきりとしない。朝、目覚ましで無理矢理身体を起こして会社に行って、愚にもつかないことに熱中する振りをして、利益のため?に働いたりするのだろう。誰のための利益なのか、ただ金銭をぐるぐる社会の中で回転させるためだけに必要な労働なんじゃないのかなんて喋ったりするものの、お金は必要だしチョレギサラダは旨い。
「私、幸せよ」
 響はそう言ってビールをやめてカクテルを注文した。
「うん。格別の不幸がないから、総じて幸せなんだろうなあ」
 僕は段々何が不幸で何が幸福なのか分からなくなって、やはり飛び降りたりするほどまでに絶望が足らないのではないかなとか考えた。
「そう? 時々、どうしようもなくて死んじゃいたいなんて思わない人なんていないんじゃない? もしかしてあなたは希少動物?」
「響でもそんなこと考えるんだ」
「ひどい。それに、べつに絶望したら死にたくなる訳じゃないんじゃない」
 確かに晴れた綺麗な空とか美しいもの見たら、その中に吸い込まれてゆきそうな感じもしないでもないけど。吸い込まれるというか、空と一体化したような感じも」
 などと辛気くさい話をしてたら、酔った中年のサラリーマンが焼いた海老を持ち上げて言うに曰く。
「この海老はまさか自分が死んで焼かれてるなんてことなんか感じてないんじゃないかな。旨いとかまずいとかなんてことも本人にとっては全く関係ない」
 生成流転という言葉がある。物事は始まり、そして展開しやがてぐるぐるまわったような感じになって、やがて死滅する。12小節のコードと同じだ。始まりがあってぐるぐるとまわって、展開の後、終わる。 
 ブルース。そう。そう。と、僕は切りだした。さっき、駅前で音が聞こえてね。それがウォーキンベースを響かせていたんだけど。ああ、と響は頷いた。英語だとブルースって憂鬱ていう意味じゃない? うん。だけど実際にあれよくよく聴いていると案外明るいんだよね。どこが? ウォーキンベースってあるじゃない? ベース音がドンダンドンダンっていう風にシンコペーションしてるようなのが。うん。あれね、実際にあの音に合わせて歩いてみると分かるのだけど、丁度歩くリズムと同じなんだ。
 響はちょっと首を傾げた。
 うん、歩くペースと一緒の感じ。

 僕らは酔っぱらいをふっきった後、部屋までの間、ちょっと回り道をして歩いた。
 夜の川縁は暗くて風が吹きっさらしになっていて、それでも街の明かりに稲穂のように雑草が揺れているのが見える。遠くの高架橋の上を電車がゆるやかな光の帯となって走ってゆくのが見え、バイクが僕らの脇を高速で駆け抜けてゆく。どんだん、どんだんと、シンコペートするリズムに乗るように僕らは歩いた。
 歩くのは心地良い。
 僕らはいつまでも歩き足らないような気がしてずいぶん遠回りをした。でも、ひとつ分かったことがある。死にたくなったら歩くことだ。どんどん歩いてどんどん前に進んで、そして風景に出会い我が家に戻る。そしたらまた生きて行けるような気分になると、思う。[fin]

 

 100年。そうそう、去年はブルース生誕100周年だったようで、ブルースを題材とした映画も公開されて、ずいぶんと色々な雑誌やメディアでブルースについての記事を見かけた。ブルース大好きッ子だから嬉しいのだけど、さてはて一過性に終わらないで欲しいなあとか思う次第の今日この頃。
 さて、今回は「ブルース」なのですが、「伊勢佐木町ブルース」とかのイメージでブルース語っちゃいけません。ブルースは悲しいだけじゃなくて、悲しみを突き抜けた場所にあると思うんです。やはり。あえて言えば、演歌やフォークは悲しいところで自慰的に終わってるけど、その先に突き抜けた明るさがあると思うし、だからこそ力強い音楽なのだと思う。自殺なんか考えてしまう人には騙されたと思ってブルース聴いてみろと勧めます。
 普段ならアルバムの紹介するけど、ことブルースに関してはアルバム選べませんので、下手なアルバム100枚紹介するよりライブや映画を一本見た方がずっと分かりやすいと思うので今回はアルバム紹介はナシで。

project

 The Blues Movie Projectという、マーチン・スコセッシ監督が中心となって、7人の監督が一人一本ずつ撮った一連の映画なんだけど、春先になると日本語版のDVDが発売になるので、早くレンタル屋に並ンで欲しいものです。

■ソウル・オブ・マン (THE SOUL OF A MAN)

the soul of a man

ブラインド・ウィリー・ジョンソンが映画の案内役になり、スキップ・ジェイムスとJ.B.ルノアーの人生を中心に描く。見どころはスキップ・ジェイムスの個性への追求とJ.B.ルノアーの公共性(当時盛んだった公民権運動へのつながり)で、同時代の古い映像とマッチさせて手堅く纏めている。いわゆる「ブルースマン」の人生を描くというのは、案外、定型的な描き方(綿花畑→街に出て→非業の死)に陥るのだけど、あまりブルースの歴史に目立たない三人を取り上げて、一部ドキュメンタリー的に処理することによって、それを回避している。監督はヴィム・ヴェンダースなので詩的な感興を映像化するのにはもってこいの監督で安心して見れた。ベックがJ.B.ルノアーの曲を演奏するシーンがすごいカッコいい。カサンドラ・ウィルソンが妖艶でいい。ジョンスペのスタジオライブ映像とかもカッコイイ。
出演:スキップ・ジェイムス/J.B.ルノアー/ベック/イーグル・アイ・チェリー/ルー・リード/ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョンほか

■レッド・ホワイト&ブルース (RED,WHITE&BLUES)

red white and blues

ブリティッシュ・ロックとブルースとの繋がりを当時有名だったミュージシャンの記憶を中心に追いかけたドキュメンタリー。古いブリティッシュロックを好きな人が見れば、こんな人居たなあと懐かしがることができるのは間違いない。60年代にイギリスで流行ったスキッフルの話とかとても興味深い。見どころは、ジェフ・ベック、トム・ジョーンズ、ヴァン・モリソンのセッション風景と、シスター・ロゼッター・サープ! ロゼッター・サープというゴスペル出身の歌手の古い映像が流れるのだけど、これが馬鹿みたいにカッコイイ。袖のないドレスを着て、SGを抱えて歌ってるのだけど、この数分だけの映像を見るだけでも価値はあると思う。逆に、古いイギリスのロックの周辺事情を知らない人が見たら、だれが誰だか焦点がとれてないので詰まらないかも。監督はマイク・フィギス。
出演:エリック・クラプトン、ジェフ・ベック、トム・ジョーンズ、ヴァン・モリソン、ルル、B.B.キングほか

■ロード・トゥ・メンフィス (THE ROAD TO MEMPHIS)

the road to memphis

ブルースやロックの聖地、メンフィスにまつわるミュージシャンをB.B.キングやボビー・ラッシュを中心にアイク・ターナーやロスコ・ゴードンを交えながらメンフィスという「場」を描いた作品。ほとんどがロードに出てるミュージシャンの話とその語りで描かれているので、ロードムービーのようで見ていて気持ちがいい。見どころは俄然ボビー・ラッシュ。ボビー・ラッシュのエロソングをダンス付きでみることが出来て幸せ。あとはアイク・ターナーとエルビス・プレスリーに関する話とか、B.B.キングのライブです。B.B.キングの「Thrill Is Gone」っていう有名な曲があるんだけど、B.B.キングが凄いのは、年々その曲を進化させてるところ。どの映像やいつライブ行ってもアレンジが違うのは、さすが。監督はリチャード・ピアース。
出演:B.B.キング、ボビー・ラッシュ、ロスコー・ゴードン、アイク・ターナーほか

■フィール・ライク・ゴーイング・ホーム(FEEL LIKE GOING HOME)

feel like going home

現役ミュージシャンのコリー・ハリスが案内役となって、ブルースの起源である西アフリカへの旅を描く。アメリカ本国だけでなく、音楽がアフリカへ遡及してゆくのが感動的。ドキュメンタリーとして視点が大きくワールドミュージックへの広がりがあるので、一連のブルース=アメリカ黒人という視点だけではないのが嬉しい。見どころはコリー・ハリスがアリ・ファルカ・トゥーレやサリフ・ケイタの所に行くシーン。アリ・ファルカ・トゥーレがどんな人か初めて知った。ワールドミュージック系では有名なのに映像なんてあまりない(はず。僕は始めて見た)人のセッションや生活空間がものすごく興味深い。ファルカ・トゥーレとコリー・ハリスのセッションは、ライ・クーダーとファルカ・トゥーレのコラボアルバムを思い起こさせる。びっくりしたのはサリフ・ケイタがタカミネ(日本の楽器メーカー。よく駅前で少年が弾き語ってるのはタカミネのギターが多いんだよ)のギターを弾いてて、サリフ・ケイタってタカミネで曲作ってるのか! なんて驚いたり。頑張れギター少年! あと、タジ・マハールの映像も良かった。監督はマーティン・スコセッシ。
出演:アリ・ファルカ・トゥーレ、サリフ・ケイタ、アビブ・コワテ、タジ・マハール、コリー・ハリス、オサ・ターナーほか

■デビルズ・ファイヤー (WARMING BY THE DEVIL’S FIRE)

warming by the devils fire

ここまでの映画、どれも見たんだけどこれがちょっとがっかりしたのは、少年がブルースに目覚めてギターを手に持ち歌い始めるまでの話なんだけど、架空の物語で、いわゆる「ブルース」の物語に引きずられすぎていたように思う。音楽映画は架空の話にするなら脚本をかなりしっかりしないとダメで、ブルースの映画なのにクラシカルのギター合戦で勝ってしまう映画「クロスロード」よりも脚本が酷かった。ただ逆にいわゆる「ブルース」ってなに? っていう人向きには、分かりやすいストーリーで、酒と女と音楽とみたいな典型的な物語を描く。監督はチャールズ・バーネット。
出演:サン・ハウス、メイミー・スミス、アイダ・コックス、シスター・ロゼッタ・サープ、ミシシッピー・ジョン・ハート、ビッグ・ビル、ブルーンジーほか

■ゴッド・ファーザー&サン (GODFATHERS AND SONS)

godfathers and sons

チェス・レーベルとマディ・ウォーターズがロック世代に向けて作った『エレクトリック・マッド』というアルバムを現代のラップとどう組み合わせるのかという映画。未見。ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョンが出てきたあたりから再評価されはじめた『エレクトリック・マッド』。昔はキワモノ扱いされたアルバムでした。監督はマーク・レヴィン。
出演:ハウリン・ウルフ/マディ・ウォーターズ/ココ・テイラー/サム・レイ/マジック・スリム /チャックD/コモンほか

■ピアノブルース (Piano Blues)

自身もジャズキチガイでピアノも弾くクリント・イーストウッドが監督。昨年なくなってしまったがレイ・チャールズが出てる。ドクター・ジョンも出てるみたいだ。見たいのだけど、イーストウッドの意向で日本ではWOWOWのみで放映されたので、まだ未見。誰かビデオに取ってたら、コピーしてください。お願いします。。。
出演:クリント・イーストウッド、ドクター・ジョン、レイ・チャールズ、デイブ・ブルーベックなど

以上7本の映画でした。加えて今年の春頃に公開となる一本があって、The Blues Movie Projectは終わる。

■ライトニング・イン・ア・ボトル (Lightning In A Bottle

03年2月に行われたブルースのライブのドキュメンタリー映画。錚々たるメンバーで書き切れないので出演者は公式サイトで確認のこと。こんなライブを(B.Bが)死ぬまでに一度見てみたい。

そういや一連の(黒人系)音楽映画が去年今年あたりで大量に出回ってる。
永遠のモータウン(http://www.eiennomotown.com/)からだと思うのだけど。
リンクのみ紹介。

■レイ (Ray

昨年逝去したレイ・チャールズの伝記映画。トレイラーを見たんだけど演技が凄くよくできていた。

フェスティバル・エクスプレス

ジャニス・ジョプリン、グレイトフル・デッド、ザ・バンド、バディ・ガイ、フライング・ブリトー・ブラザーズなどがカナダを横断してツアーをした時の映像を映画にした(らしい)。アフリカ系アメリカ人はバディ・ガイだけかな?
ジャニスの映像は見たい。

ソウル・サヴァイヴァー

今丁度公開してるのかな? ブエナソシアルクラブのアメリカ版だという触れ込みだけど、その二番煎じ感覚ってひどいなあと思いながらも結局見るんだろうなあと思ったりします。サム&デイブのサム・ムーア、ウィルソン・ピケット、ルーファス・トーマス、カーラ・トーマス、ジュリーバトラーなど
映像はここ

ちなみにブルース関連の映画をちょっと並べてみる。

ブルース・ブラザーズ

言わずと知れたブルース・ブラザーズ。ダン・エクロイドとジョン・べルーシー。これを見ずして音楽映画を語るなかれ。映画も語るな。

ブルース・ブラザーズ2001

上の続編。オールスターキャスト。

クロスロード

伝説のミュージシャン、ロバート・ジョンソンに憧れる少年(ラルフ・マッチオ)がスティーヴ・ヴァイとのギター・バトルを繰り広げるw

THE HOTSPOT

マイルス・デイビスとジョン・リー・フッカーが参加したサントラしか見かけたことないのだけど、かなり(音楽的に)良さそうな映画です。監督はデニス・ホッパー。リンク先はそのサントラが収録された最近のコンピ。後半が件の映画のサントラです。

歌え!ジャニス・ジョプリンのように

上のジャニスの映像を見て思い出したら、思い出して検索したらDVDが2月9日発売だそうで。そういやこのジャニス役の人死んじゃったんじゃなかったっけ?

ジャニス

そのまんま、ジャニス・ジョップリンの伝記映画。凄い。ジャニス凄い。

■Blues (だったような。。)

確かSTINGが俳優(確かウッドベースを弾いてたような記憶が)とサントラやってたように思う。映画のタイトルも確か「ブルース」っていう題名だったんだけど記憶に残ってない。。一度深夜映画で見たような記憶があるんだけど。主題歌がB.B.Kingの曲でストーリー仕立ての映画だったように思う。

アリ

厳密にはボクサーのアリの伝記映画だけど、音楽映画としてもよくできていた。しょっぱなからサム・クックのライブを模した映像で、サントラはブラックミュージックが満載してる。丁度、公民権運動と重なるので時代背景も分かって一挙両得。主演はウィルスミス。

ワッツタックス

ソウルの名門レーベルのスタックスレコード。1972年のスタックスのミュージシャンが一同に介したライブ映画。

オー・ブラザー!

脱獄した3人の囚人のドタバタロードムービー。監督がコーエン兄弟で話題になった。

天使にラブソングを参考

なにはともあれゴスペルを日本に広めた映画だと思う。

シカゴ・ブルース

元はNHKのドキュメント番組。70年代の初めに放映された当時のシカゴのブルースの様子を描く。

■アメリカン・フォーク・ブルース・フェスティヴァル 1962-1966

ヨーロッパにブルースをひろめたブルースフェスティバルのライブ映像を集めたDVD。
アールフッカーが凄いいい。(参考1参考2参考3

伝説のテレビ映像「ザ・ビート」1966

ブラックムービーを入れたら手が回りきらないのでとりあえずこれぐらいに。。。
もう一度言います。
ブルース、百聞は一見に如かず。

以上

20050128

サイキカツミ
WRITER サイキカツミ
死にたくなったら、歩け。
URL:ぞうはな

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