特集「見る」
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特集「見る」

難しさにこそ、魅力が

今回はCGアニメーション作家の保谷瑠美子さんにお話を伺いました。
保谷さんは墨絵によるアニメーションを制作されており、今年の8月から放送のNHK金曜時代劇『慶次郎縁側日記』のオープニングとエンディングも担当されています。

まず、今回のテーマは「見る」ということなんですが、日常でふと注目してしまうもの、意識して見たり観察しているものはありますか。
また、そこから気付いたり発見したことがありましたら教えてください。
Sakyamuni Flog保谷:まず、箇条書きでよくふっと注目してしまうものは、空(雲の形、色)、夕日、広い空間、朽ち果てたもの、カラスの仕種、古い家、木の木目、ガラクタ、骨董品、電柱、電線、鉄塔。
意識して観察するものは、その時々に違います。その時気にしていることや、その時携わっている仕事、描こうと思っている絵など、それによって様々ですが、今は、黒い瓦、古い宿場町、古い家、パリの街、石段。写真やたまたま通りかかった時など、ジッと見つめてしまいます。
心和気が付くことはいっぱいあります。例えば簡単に、曖昧な記憶でしかなかった形が、はっきりと認識できたり。
また、私の原風景には確実に電信柱と電線が存在するのだと、夕方に浮かび上がるそれらのシルエットを眺めると、ひどく懐かしい気分になったりする時、そうか、と気が付くことがあります。
保谷さんは墨で作品を描かれることが多いと思いますが、墨を使う魅力・難しさとはどのようなところでしょうか。
それがムービーとして動き出すことによって変わってくるところはあるでしょうか。
Sakyamuni Flog保谷:難しさにこそ、魅力があります。
毎回、描くごとに満足いくことは決してありません。
調整の難しさ、しかし、その調整もまた楽しく、そして、その結果として動きだした時、有機的な線画がいきているように、また、滲んでぼけてしまったり、他の線よりも太くなってしまった時の、言い様もない不完全さは、計算し尽して作られるアニメーションにない暖かみとなって表現できるとおもっています。
心和つねに私の手の外にある、そんな感覚です。偶然の美に近いです。
私が作った作品ではあるかもしれないですが、書き終わるごとに私の手を離れて行く偶然の面白さでしょうか。
そこが、難しくもあり、なんとも言えず、自分を魅了するのだと思います。
「心和」を拝見して、言葉ではない形で自分の内側から語りかけられるような印象を感じました。
映像やイメージを通してメッセージを伝えるうえで意識されていることはありますか。
Sakyamuni Flog保谷:静かな感情を伝えたいと思っています。私はこれを伝えたい!と思うことを声を大にしていいたくないのです。これはたんに作り手としての羞恥心かも知れませんが。
声をおおきく張り上げた感情ばかりが感情ではありません。小さな囁きも、感情です。私はより小さい感情に耳を、内側の声に耳を傾けたいと思いながら、作品を作っています。ですので私の精神状態が常にでている状態で作品を作っていますが、懐かしいと思う、穏やかな気持ちで見られる、それをだけを心掛けて、あとは、見た方の感情にお任せしています。
心和『心和』放送用に『ココロナゴム』と読ませていますが、漢字は感情のある文字だと思っています。もし、外国の方がまたく先入観もなく『心和』と言う文字を目にしたら読めないとは思いますが、決して冷たい気持ちにはならないと確信しています。
すべて他人まかせ......伝えたいことは見たかたそれぞれで違うのではないでしょうか。
海外のテレビ祭等にも出品していらっしゃいますが、日本人と海外の方で作品を見る視点に違いを感じることはあるでしょうか。
Sakyamuni Flog保谷:あるとおもいます。しかしながら、語ることは難しいことです。
曖昧に言います。
日本人は感情を抜きにして見ます。しかし、海外の方は感情で見ます。
そう感じました。難しい。
日本の方はいい!と思った後、ふと立ち止まって『ちょっとまてよ?』と自分に疑問符を投げかけます。もしくは、悪いところを探そうとするところがあります。
外国の方は、いい!と思った時は『GO』です。逆にいえば、大雑把なところも。
視点の違いの説明になっているかはわかりませんが、一番の違いはそこだと思いました。
最後に「見る」ということに関して意識していること。
また、これを読んでいる方々に、ものを見る時に心掛け、、、とまでいかなくとも、気にかけて欲しいことがありましたら一言お願いします。
心和保谷:見ることはすべての原点だと思います。記憶のすべては見ることで出来ていると思います。
また、自分の作品も私の目から見た世界がそのまま投影されているとも思います。
なんとなく過ごすことも出来ますが、大きく全体を見てみる。スゴク近くで小さいものを見る。その二つをバランスよく見ることが大事ではないかなって思っています。視野が広すぎてもぼやけてしまうし、視野が狭すぎても多きものは見えて来ない。
見ることは感じること。見たら何かを考える。そうするとおのずと違うものが見えたりもします。見ることは心の広さでもあり、細やかさだとももっています。
また何かを実際の物を見ずに描こうとしてみると、身近なものでも案外描けないものです。
だから私はできるだけよくみて、よく記憶に留めたいと心掛けてます。自分の引き出しを増やすのは、自分の目から何かを見つけることだと思います。
大変有難うございました。これを読んだ方にも自分なりの「見る」について考える機会にしてもらえると良いなと思います。
聞き手・甲斐

動画作品のご紹介

いずれも必見です!

Profile
 保谷瑠美子(ほやるみこ)
埼玉県出身。NHKデジタルスタジアムをはじめ、さまざまな世界的な賞を受け活躍中。NHK金曜時代劇『慶次郎縁側日記』でタイトルバック担当。
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